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大人気ゲーム「ウマ娘」で話題沸騰中!東スポで振り返るゴールドシップ伝説

ヒットの秘密は…

 実在の競走馬を擬人化したスマホゲームアプリ「ウマ娘 プリティーダービー」が、公開1か月あまりで500万ダウンロードを突破する大ヒットとなっています。

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© Cygames, Inc.

 名馬の名前がついた美少女キャラクターを育成し、レースでの勝利を目指すゲームで、人気の秘密は各キャラの個性。例えば、優等生なシンボリルドルフやダイワスカーレット、自由奔放で無謀な挑戦もしちゃうウオッカ、名門に生まれたメジロマックイーン、サイレンススズカはストイックだし、歩き方に特徴があったトウカイテイオーが変わったステップを踏んだりもします。競馬ファンには「わかるわかる」という設定がてんこ盛りなんです(競馬担当ではないものの競馬歴30年の私は完全にハマッています)。

 しかも面白いのは、その個性が競馬を知らない人にも魅力的なこと。ゲームをプレーして、「こんなかわいいキャラがいたんだけど、実際、その馬ってどんな感じだったんだろう」と疑問を抱き、ネット等で調べている人が多いとか。競馬を愛し、競馬を応援する新聞を制作する人間としてこれほどうれしいことはありません。ゲームをきっかけに興味を持った方に、もっともっと競馬を知ってもらいたいと思い、競馬におけるナンバーワン新聞メディアを自負する本紙の記事や写真を使って、個性豊かな名馬の戦績を振り返ってみようと思います。(文化部・山崎正義)

1回目は超個性派!

 まずは、ウマ娘の中で最もキャラが立っているといわれる「ゴールドシップ」です。

 ウマ娘公式HPのキャラ紹介にはこうあります。

思いつくままに行動し、面白おかしく生きる自由人
・トレセン学園一のトリックスター

 ゲーム上でも、まさに自由気まま。会話がかみ合わず、すぐにやる気がなくなったり、レースで勝った後にドロップキックをしてきたりします。その破天荒さはまさに実際のゴールドシップ。で、競馬を知らないたくさんの人々が「ゴルシ」ことゴールドシップの現役時代を検索しているようなんですが、あまりにぶっ飛んだ伝説ばかりが出てきてしまいます。特に、この〝世紀の出遅れ〟――。

2015宝塚2

 確かにインパクトはありますよね。実際、かなりのニュースにはなりました。このレースでゴールドシップに関連した馬券は約120億円だったんですが、それが一瞬でパーですから。本紙も翌日、こんなふうに報じています。

15年宝塚・結果

 ただ、これだけじゃ単なる変な馬で、気まぐれなのに強いという本来のゴルシ像が伝わり切らないと思うんです。そこで今回は、彼の成績を振り返りつつ、当時、ファンからどんなふうに見られていたのかをまとめてみます。私は競馬記者ではないのですが、そのぶん冷静に綴れますし、毎週末ウインズや競馬場に通っていた人間なので、そこで感じたファンの間のリアルな空気感のようなものが伝わればうれしいです。

若かりしころのゴルシ

 まず、大前提として、ゴルシは最初から気まぐれとして有名だったわけではありません。人間で言う10代後半ぐらいだった2012年、GⅠ(ジーワン)という大きなレースを秋までに2つ勝ちます。「スマートで速い」というより「パワーがあってスタミナのある馬」で、レースの途中は後ろにいて、3~4コーナーで上がっていく独特のスタイルを持っていました。ゲームのゴルシが長距離や追い込み戦法を得意としているのはこのためです。

 で、その年の最後、有馬記念というGⅠレースで大人と一緒に走り、そこでも豪快な勝利を収めます。「こいつは化け物かもしれない」「ゴルシの時代がやってくる」。誰もがそう感じました。

13年有馬馬・結果

2013年のゴルシ

 そして、人間で言う大人になった2013年からゴルシ劇場がスタートします。まず、初戦の阪神大賞典(GⅡ=GⅠの次に大きいレース)に単勝オッズ1・1倍で出走します。この後も出てきますが、単勝オッズというのは「この馬にお金をかけたらいくら戻ってくるか」です。1・1倍というのは100円かけても110円しか戻ってこない究極の数字。そのぐらい多くの人が勝つと思っている、実力を認められているという意味で、とにかく「単勝1倍台=めちゃくちゃ支持されてる」と理解してもらって構いません。

 で、ゴルシは期待にこたえて楽勝します。「やっぱり強い」「本物だ」。誰もがそう思ったはずで、続くGⅠ天皇賞・春でも1番人気になります。しかし、いつものように3~4コーナーでグワーッと外を上がっていくものの、そこから伸びずに5着に敗れてしまいます。後に、そのときのような高速馬場が苦手なことが明らかになっていくのですが、このときはまだその特徴はそれほど浸透しておらず、「どうしたんだろ」「アテにならない馬なのかな」と、懐疑的な目で見る人が少しだけ出てきました。で、宝塚記念は1番人気ではなく2番人気だったんですが、そこでゴルシは完勝します。スタートからの行きっぷりもまずますで、終始先行集団の後ろにつけたレースぶりから、「いやいや、やっぱりすごいんだ」「本格化だな」となったわけです。

2013宝塚2

 こうなると秋は王道路線を進むのが競馬の常識。ただ、このころからゴルシはどんどん騎手の言うことを聞かなくなっていきます。単勝オッズ1・2倍で臨んだ京都大賞典(GⅡ)では内田博幸ジョッキーに叱咤激励されて先行するものの最後の直線で伸びあぐね5着、続くGⅠジャパンカップでは終始後方。4コーナー手前から早めに追い上げましたが、全く伸びませんでした(15着)。レース後、内田騎手は「本当はもっと前に行きたかったけど、その気がなかった」と話し、ゴルシ自身もケロッとしていたといいます。つまり、本気で走っていないわけです。

 陣営はゴルシのやる気を引き出そうと、続く有馬記念で世界的名手・ムーアを鞍上に迎えます。ただ、結果は3着。1着から9馬身半も離されていただけに、ハッキリ言って微妙な結果です。本気を出したのか出していないのか…誰も分からないまま、その年を終えました。

2014年のゴルシ

 ゴルシの2014年は前年と同じ阪神大賞典から。昨年1・1倍だった単勝オッズが1・7倍だったことからも、ファンの懐疑的な視線が増しているのが分かります。しかし、そんなときこそ圧勝するのがゴルシ。しかも、スタートも行きっぷりも良く、自ら動いて後続を突き放します。岩田康誠騎手に変わったことが刺激になったのか、明らかに行儀が良くなっており、「いよいよ真面目になったのか?」と思うような楽勝でした。そして、陣営もファンも続く天皇賞・春で「昨年5着のリベンジだ!」となったのですが、そうは問屋が卸しません。ゲートインの際に係員がムチを使って誘導し、さらに尻を押したことで一気にエキサイト。ガッツリ出遅れた上に走る気も見せず、7着に終わります。「馬を怒らせてしまい、完全に走る気をなくしてしまった」(調教師)。「もう大丈夫だろう」と思って馬券を買ったファンも多かったでしょうが、やはりゴルシはゴルシでした。そして、「立て直すのに時間がかかるかも」と思わせておいて、続く宝塚記念は…はい、そろそろ皆さん想像がつきますよね。完勝です。

2014宝塚2

記念撮影でもひと暴れ。

2014宝塚3

 で、手綱を取ったベテラン横山典弘騎手がレース後に発した「こちらは『頑張ってください』と馬にお願いする立場」というコメントにより、もうこれは誰が何と言っても、走るか走らないかはゴルシ次第なんだということが証明されます。気まぐれな馬を上手に操ってきた大ベテランでさえお手上げなんですから、「なんなんだよ!」と怒っていた人も「仕方がない」とあきらめるようになりました。そして、その気まぐれっぷりにハマるファンが激増していきます。

 ただ、当の本人は相変わらずで、続く札幌記念(GⅡ)で比較的真面目に走ったものの(2着)、秋は凱旋門賞に挑戦してフランスでのんびり(14着)。年末の有馬記念では前年同様、やる気があったのかなかったのかビミョーな3着となります。

2015年のゴルシ

 そして、年が明け、アメリカジョッキークラブカップというGⅡに単勝1・3倍のダントツ人気で出てきて全く走らず(7着)、そうだと思ったら阪神大賞典はしっかり勝利します。もはや、この〇×の繰り返しに誰も驚かなくなっていたんですが、生粋のエンターテイナーである本人はそれが気に食わなかったのでしょうか。この後、さらに私たちを弄んでくれます。

 天皇賞・春。過去2年のパターンで言えば、〇(阪神大賞典勝利)の後ですから×(敗戦)です。正直、本紙の競馬記者もかなり懐疑的に見ていました。見てください、この印。◎(本命)もありますが、無印にしている人もいます。

15年天皇賞・馬柱


 2番人気ではありましたが、「信用できない」という空気が漂っていたのは間違いありません。しかも、いざファンファーレが鳴ると、ゲートになかなか入らないんです。

2015天皇賞春

 私はWINSにいたんですが、モニターを見る多くの人が「ほらな」「今回はダメな日だよ」と口にしていたのを覚えています。4分後、やっとのことで入り、他の馬が続々とゲートイン。「絶対に出遅れる…」。誰もがそう思いました。なのに、意外とフツーにスタートを切ったゴルシは、3~4コーナーでフツーに上がっていき、フツーに勝ってしまいます。「なんなんだ…」。みんなの心の声が聞こえました。ゴルシファンも驚いたであろう、この2年なかった「連勝」です。さすがにファンも関係者も「いよいよ大人になったか」と感じたと思います。人間で言えば中高年に差し掛かろうとする年齢ですから、さすがに丸くなってきたのだろう、と(実際そういう馬は少なくありません)。しかし(この言葉を何回使うのでしょうか)、次走、事件は起こります。冒頭で触れた宝塚記念でのスーパー出遅れです。「もう大丈夫だろ」というファン心理、連覇している得意の阪神芝2200メートル、出走メンバーもそれほど強くない…好走条件が揃いに揃った単勝1・9倍の大人気馬は、ゲートで大きく立ち上がりました。

2015宝塚3

 競馬では、2~3メートルぐらい出遅れることはよくあります。しかし、このときはゴルシがやっとのことで進み始めた時、他馬は既に20メートルほど前を走っていました。気分も乗らなかったのでしょう、その後も見せ場のないままブービー15着に終わります。

〝世紀の出遅れ〟は大きなニュースとなり、当然、競馬ファンからは怒りの声も上がりました。ただ、私はあの日、関東の競馬場にいたのですが、「怒号が飛び交う」という表現とは少し違ったんですよね。「ふざけんな!」と同時に「仕方がない」「やっぱりやらかした」という声を耳にしたのを覚えています。「だってゴルシだもん」。このひと言であきらめがつくぐらい、既にキャラが確立されていたのかもしれません。また、なかなかゲートに入らなかった天皇賞の後、陣営がしっかりケアをしていた事実が報道されていたことも関係していると思います。練習をして、レース前にはゲート試験も合格していました。主催者であるJRAが「走っていいですよ」とGOサインは出しているわけです。練習は大丈夫でしたが、本番でちょっぴり気分が乗らなかっただけなのです。

 ファンが怒っていないことは、その年の有馬記念で証明されます。秋を前に年内での引退が決まったゴルシは、ジャパンカップで普通にゲートに収まり、まずますのスタートを切ったものの10着に終わるんですが、引退レースとなった暮れの有馬記念のファン投票で1位を獲得するのです(12万票超)。愛されていたんですね。

 そしてその有馬記念。正直、ジャパンカップで見せ場もなく、競馬好きの間では「さすがに厳しいだろう」という声が大半でした。しかし、誰もがその後に「でも…」と言葉を濁す不思議な空気がありました。「もしかしたら…」「ゴルシなら…」。競馬というのは奇跡が起こります。特に有馬記念には奇跡が似合う。力が衰えたはずのオグリキャップが復活を遂げた有名なエピソードをご存じの方もいるでしょうし、今年1月から放映されたアニメ版ウマ娘のSeason2でも奇跡の復活はテーマになっています。でも、ゴルシの場合は少し違いました。衰えやケガからの涙涙の復活とは違う、気まぐれ男の最後っ屁を期待する謎の空気が漂っていたのです。

 ファンファーレが鳴りました。最後の最後まで〝要注意人物(馬ですが)〟であるゴルシが、どの馬より先にゲートに向かわされます。

やるのか…

 張り詰める空気の中、意外とすんなりゴルシがゲートに収まります。

やるのか?

 誰もが固唾をのんだスタート。これまた意外とすんなり出ます。

もしかして今日はやるんじゃないか…

 しかし、行き脚がつかず、最後方のまま進んでいくゴルシ。

やっぱりやらないのか…

 そのときでした。向こう正面を過ぎて3~4コーナー。白い馬体が外を回って上がっていきました。16番手から10番手、5番手、そして3番手。グングングングン上がっていきます。

やるんだ!」――。

 やりませんでした

 結果は8着。レース後に行われた引退式には、師走の寒い中、4万人が残ったといいます。

引退式


 今回はいかに気まぐれだったかをレースを追って綴ってみました。競馬の東スポとしては、もう少し専門的な話も入れたかったのですが、競馬を知らない人にも分かるようにした結果ですのでご容赦ください。ゴルシの脚質や馬場適性、血統には語るべき部分がまだまだあります。それは競馬を学ぶための格好の題材にもなるので、また改めて綴ってみたいと思います。最後に、ゴルシが我々を楽しませてくれた13年から15年宝塚記念までの成績を、本紙の競馬欄を使って載せてみます。右上の赤い丸が着順、その左下の赤丸が人気です。数字だけ見ても、勝ったり負けたりがよく分かりますし、競馬ファンの方はこの方が親しみがあるかもしれません。

馬柱で振り返るゴルシ

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13春天

13宝塚

13京都大賞典

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13有馬記念

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14春天

14宝塚

14札幌

14凱旋門

14有馬

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15春天

15宝塚


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