ラノベを読んで落語を書く。
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ラノベを読んで落語を書く。

企画趣旨

 東スポの記者をやっていると、「なんかおもしろいネタないのかよ?」とデスク(=上司)に言われるだけでなく、飲み屋さんに行っても「へぇ~、で、最近のおもしろいニュースは?」と聞かれる場面がよくあります。業務時間外とはいえ「ありません…」とは絶対に言いたくないのが記者の性。
 世の中の「おもしろい」をつかむために、東スポ記者はどんな本を読んでどんなアンテナを張っているのでしょうか? 東スポ記者の読書ログを読んで一緒に発想力を磨いていきましょう!トップバッターを務めてくれるのは、文化部所属の40代・赤メガネ記者です。はりきってどうぞ~!

娘のラノベを読んでみた

「くっせぇ、くっせぇ、くっせぇわー! あなたが思うより激臭です!」と小学4年生の息子がデカい声で歌いながら私の部屋のドアを開けてきた。

 酒、胃酸、加齢臭が混じり合う部屋にぴったりの替え歌をありがとう。あれだよな。バズッてる歌。うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわー!ってやつ。あなたが思うより健康ですってやつ。なかなかうまい。座布団一枚。

高校生シンガーのAdo(アド)の楽曲は中毒性が高い


 ただ、カミさんが「朝のあの部屋は臭いからあんたが起こしてきて」と言っていたのを想像すると、こっちがうっせぇなとも言いたくなる。ニオイなんて止めようがないんだから、臭いものを臭いと言っても意味がない。ひとつも面白くない。当たり前の反応をしないで、息子のようなアホな反応が欲しい。笑いにしなきゃダメだ。まただ。いつもこうだ。よくあることに、よくあるように反応するのってつまらないと思ってしまう。実はこれ、職業病である。

 くっせぇ私は東スポの記者だ。
 普通のニュースに普通に反応してもつまらない。
 視点や切り口を変えないと面白くない

 そう思ってしまう。

 20年間、そういう新聞でやってくると、そういう人間ができてしまう。
いや、違うか。そうじゃないまっとうな人も社内にはいるけど、私の場合はどうやら、もともと物事を見る角度がおかしいのかもしれない。だからこの東スポnoteを仕切る後輩も私に声をかけたのだろう。

「普段どんなこと考えてるんですか? 例えば、どんな本を読んでるんですか? そのあたり、書いてもらえません?」

 有能な後輩にうっせぇなとも言えないので、こうしてキーボードを叩きはじめたのだが、はて、最近何を読んだだろう。

 ふらりと入った娘の部屋。
 漫画、漫画、ラノベ、漫画、ラノベ、ラノベ、漫画、漫画、ラノベ…。こいつは勉強する気があるのだろうか。

 まあいいや、自分も小さいころは漫画ばっかり読んでたジャンプ世代だしと思いつつ、ラノベに手を伸ばす。ライトノベル。かわいい女の子(昔的に言えば萌えっぽいやつ)が表紙になってる文庫で、おっさんが読む本ではないと思っているおっさんも多いはずだが、おっさんも読めます。

 私も、最初はあまりに暇すぎて娘の部屋から一冊取り出してみたのがきっかけだったものの、実は主要ジャンルであるファンタジーや異世界モノは、40代以上のドラクエ世代にはとっつきやすかったりもする

 例えば、弱い男がカワイイ女子と出会いながら冒険をして強くなる(決めつけてすみません)。クエストですね、クエスト。で、魔物を召喚したり、魔導士が出てきたり、女剣士が出てきたり、しまいには体力のことを「HP」と呼んだり…ドラクエの世界観だと思えば、意外とついていけるのだ。しかも、展開がスピーディーなので、一気に読める。

 そんな中、先日はちょっと変わった作品を見つけた。

「異世界落語」(ヒーロー文庫)

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 舞台は剣と魔法の世界…という設定はいかにもラノベ。魔族の侵攻により滅亡の危機を迎えていた国が救世主を召喚…ここまでもラノベ。でも、召喚してしまったのが落語家なのである。このぶっ飛んだ展開と発想は、まさに東スポ。幸い、私も落語好きで、コロナで寄席に行けないぶん、これで落語気分を味わおうと、気楽に読み始めたのだが、これがまためちゃくちゃ面白かった。

 特に、ファンタジー世界の住人に分かるよう、主人公によってアレンジされた既存の落語は、立派な新作異世界落語。「子ほめ」が「ソード(剣)ほめ」になっていたり、「元犬」が「元竜」とか「元スライム」になっていたり、バカバカしいけど、「うまいな~」という部分も多く、ホント、私もこういう記事を書かなきゃいけませんね。

 それに、これもラノベの〝あるある〟なのだが、ライトなノベルの中とはいえ、四十路を超えたおっさんでもグッときたり、ハッとさせられる場面が絶対に出てくる。今回で言えば、それこそ東スポとはこうあるべきだというシーンがあった。

 軍の副将軍のイリスという男が、主人公の落語を見て、あることを感じる。主人公がアレンジしていたのは「青菜」という落語で、本来だと、長屋のちょっとおバカな住人が、カミさんを押し入れに押し込んで(隠れてもらって)、客人と会話をするのだが、ファンタジー世界に合わせるため、カミさんをダークゲートというモンスターを魔界に送り出す魔具(ゲート)に放り込んでしまう。異世界の住人たちが聞いても「んなバカな」という内容で、実際、その副将軍も「理屈的に無理があるだろ」と思う。しかし、客は大爆笑なのである。誰もが幸せそうなのだ。

――これは私は野暮だったな。
イリスは自らの深く考え過ぎる性格を反省した。
難しく考える事は当然良い事だとも思っている。それで自分は今まで成り上がってきた。
だが、目の前のハナシカは、その「難しく考える事」を見せないようにしている。
その能力を「人を笑わせる」という目的の為だけに最大限に使っているのだ。

 しかも、この落語家は目的の為ならどれだけ低く見られようが関係ない。いや、そもそも気にしない

 いや~、こうありたいですね。東スポは人を笑わせるのが仕事。既に低く見られてはいるけど、そんなことは気にせず、そして難しく考え過ぎず、考えたとしてもそれを外には見せず、これからもアホな切り口を続けていかないといかんな~と変な使命感に燃えたのでした。

 せっかくなので、使命感ついでに、このnoteを読んでくださった方に、東スポがどういう新聞なのかを伝えるために、一席――。

元犬」という落語がある。犬から人間になった男が、四つん這いで歩こうとしたり、尻尾を振ってしまったり、ワンワン吠えてしまったり、「犬の癖が抜けない」というボケを積み重ねる話で、このラノベでも、元ドラゴンが間違って炎をはいたりする話にアレンジされているのだが、元犬の「犬」の部分が「東スポ」だったらどうなるか…。一席お付き合いのほどを。

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創作落語「元東スポ」

「あの~、先日、お電話した者ですが…」

あー、一昨日お電話くれた! いや~、本当に来てくれたんですか~。にわかに信じられなくてね。ほら、こんな田舎の地域新聞でしょう? 求人出したところで中途で来てくれる経験者なんていると思ってなかったから…。

まあまあ、お座りになって。今、お茶入れますんでね。え? 早速面接を? そうですか。じゃ、この缶コーヒーでご勘弁いただき、え~と、確か東京の新聞社にいらっしゃったとか? それがどうしてこんな田舎の地域新聞に転職しようと?

あー、なるほど、親の介護で。そりゃまた大変だ。私も一昨年見送ったけど、最後は大変でしたよ、徘徊までして…と、そんな話はいいとして、とにかくうちとしては即戦力は大歓迎です。昔は3人でやってたんですが、ここ3年は不景気と紙離れで部数も落ちたから、2人で作ってました。私ともう1人、マスコミにあこがれてたっていう55歳。早期退職で夢をかなえるって気合入れてたんですが、初心者だったから取材のイロハも知らなくてね。

そのうえ、「事件がなくてつまらない」って先月辞めちゃいました、はい。で、私一人で何とか週に1回出してはいるんですけど、正直しんどくて。還暦も過ぎたし、腰痛もあるし…。そこでダメ元で求人を出したんですよ。だからもう大歓迎です。ハッキリ言って面接なんて不要で合格ですよ。とにかく、すぐにでも働き始めてもらいたいぐらいですから。

「では、今日からお願いできますか? 早く仕事も覚えたいですし」

え? 今日から? い、いや、いいですけど…う~ん、そうですね。善は急げですし、せっかく来ていただいたのに気が変わられても困りますから、ご希望通り何か仕事を…じゃあ、せっかくだから来週出すぶんのレイアウトを手伝ってもらえますか? え~っと、ゲラはどこいったっけ。あ~、あったあった。先月新たに消防署長になった方のインタビューなんです。これの見出しでもつけてもらいましょうか。

いや~、真面目な人でね。正直、内容は地味です。街のために署員みんなで力を合わせて頑張ります的なことしか言ってませんから、まあ、メインは普通に『新署長就任インタビュー』でいいと思うんですが…

「こんな見出しでどうでしょう?」

え? もうできたんですか? え~っと、まずは、大きな見出しで『新署長 就任』。まあ、そうですよね。それしかないですよね…あれ、でも、何ですかこの『就任』の下に小さくついている『か?』っていうのは。これだと『新署長 就任か?』になりますよね。もう就任はしてるのでこれじゃちょっとおかしいような…。え? 紙面の真ん中の少し下に「か」がくるようにしてあるから心配いらない? どうしてですか? あー、新聞を真ん中で折った状態だと見えないわけですか。いやいや、ダメですよ、そもそも就任してますから。

あと、その近くにある「公約 ぶち上げた!」っていうのもちょっと大げさな気がしますし、小見出しもセンセーショナルすぎませんかね。「お父さん 生きていた!」「マドンナ 小百合だった!」「真夜中見回り大作戦!」ってまあ、確かにお父様も消防署長をやられてて今もご健在だとは言ってますし、幼少の頃のあこがれは吉永小百合さんだとか、火の用心のための見回りを夜遅くまでやろうとも言ってますが、ちょっと大げさなような…え? このぐらいじゃなきゃ新聞を手にとってもらえない? いやいや、うちの新聞はキヨスクやコンビニで売っているわけじゃありませんからねえ。「生きていた」「マドンナ」「大作戦」って、なんか聞いたことあるフレーズですが…、え~っと、なんだったっけ、思い出せないな…。

あっ、ちょっとちょっと! これ、なんで署長の写真がシルエットになってるんですか! ダメですよこれじゃ、なんか悪いことした人みたいじゃないですか! 勘弁してくださいよ、ごくごく普通の地域新聞なんですから。あと、この縦に細長いスペースは何ですか? え? 4コマ漫画を入れる部分? いやいや、こんな目立つところに4コマなんて入れませんよ。いや~、独特ですね、感性が。あまりこういうレイアウトの仕事はやってこなかったんですかね。

え? だったら取材に行ってくる? あ~、なるほど、やっぱり内勤ではなく、取材記者だったんですか。いや、でも、初日からそんなに頑張らなくても…え? 街ネタを拾いに? いや、無理しなくても…。

あーあ、行っちゃったよ。熱心というか、せっかちというか、変わった人だね、ホントに。

それにしてもこの見出し…「就任か?」って昔の東スポじゃないんだからさ。キヨスクで買って、開いてみてビックリみたいな、まあ、あれはあれで笑わせてもらいましたがね。あの頃の東スポは最高だったなあ。すごい1面があったもん。「プレスリー 生きていた」「マドンナ 痔だった」「フセイン インキン大作戦」とか…あ、あれ? なんかこの見出し、それっぽいな…。

「ただいま戻りましたー」

あらあら早いですね。おかえりなさいませ。まあ、何もないですよね。小さな町ですから、事件なんて起きないんですよ。私も街ネタを拾おうと、時々ウロウロすることはあるんですけど、空き巣が出たとか、変質者が出たとか、その程度で…え? 小学校の先生に薬物疑惑? そ、そんな話、どこで拾ってきたんですか? え? 駅の北にある飲み屋街で聞いた? ゲイバーがあるところですよね。す、すごいネタじゃないですか。

え? 不倫ネタもある? そば屋の主人と新聞販売店の奥さん? えー、あの真面目なそば屋のダンナが? 新聞販売店の奥さんだってごくごく普通の奥さんですよ? それがどうして…え? 内部告発? 不倫報道なんて、だいたい身内から出てくるもの? へ~、そういうものなんですか。というか、今までどういう取材してきたんです? 普通の新聞じゃ、こういうネタはあまり扱わないでしょう? うちの新聞も、ちょっとそういうのは避けてまして…。あくまで地域新聞ですからね。街のPR紙みたいなものですから、薬物とか不倫とか、そういう週刊誌みたいなゴシップはちょっと載せられないんですよ。市から援助も受けてますから。

え? だったら、街の人のインタビューもとってきたから、ひとまず今日はそれを書いてみる? あー、いいですね、アンケート系ですか。はい、私もよくやります。あそこに葬儀場ができるんだけどどう思いますか?とか、ええ、やりますやります。いいじゃないですか、いかにも地域新聞って感じです。じゃ、あっちの机を使ってもらって結構ですから。ええ、どうぞ、ごゆっくり。


…、すごいな。薬物に不倫って、週刊〇春じゃないんだから。もしかして記者は記者でも週刊誌の記者だったんじゃ…いや、待てよ。新聞でも薬物とか不倫に強いところがあるよな。ASKAの薬物疑惑を真っ先にシルエットで報じて〇春の記者をビビらせたという…不倫ネタも強いし、何より今日のあの人の一種ハチャメチャな行動力…関東の知り合いの記者に聞いたことがある。「あそこはウソばっかり書いてると言われるけど侮れない」「あそこの記者は他社よりはるかにしつこく取材してる」「スポーツだって、他社と一緒に選手を囲んで話を聞いただけの話だと上司に怒られるからって、単独でいろいろ聞きまわってる」「新宿二丁目人脈から激アツ情報を引っ張ってくることも多い」と。まさかあの人…いや、まさかあの会社で働くようなおかしな人が地域新聞になんかくるはずがない。でも、派手な見出し、1面に使ったシルエット…はっ! まさか4コマ漫画って、東スポ名物の三こすり半劇場のことでは…まさか、まさか…。

「原稿できました」

は、早いですね、相変わらず。確か街の人の声ですよね。ちょっと読ませていただきますよ。え~っと、話を聞いた人の名前がエリカさんで、19歳、学生。初体験は16歳…って、え? 初体験? 相手は彼氏で痛くはなかった? な、なんですか、これ。好きな体位は正常位で嫌いな体位はバックで…って、その理由は「動物みたいだから」って…、なんなんですか、このインタビューは!

「ただの街頭インタビューですが…」

いや、だから、こんな内容、あり得ないじゃないですか!

「あり得るんですよ。普通に街中で取材してきましたから」

何言ってるんです、こんないやらしいインタビューがどこにあるんですか! こんなことに答える人が…って、待てよ。あるぞ。あの新聞のエッチなページに。20年以上続いてる、素人にアレコレ聞いちゃう伝説のコーナーがある…まさかあなた…いや、やっぱりあなた元東スポですね! つまり、このインタビューは…

「はい、街頭〝淫〟タビューでございます」――。(終わり)


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ありがとうございます。また読みにきてね
東京スポーツ新聞社の紙面で過去に掲載された連載がまとめて読めたり、ココだけしか読めないコンテンツがあったりします。できる範囲で頑張ります。