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サッカー店長!本が面白くて仕方ありません!

今年はサッカーW杯イヤー。カタールW杯は11月21日に開幕する。我らが日本代表はまだ予選突破を果たしていないものの、今月24日にシドニーで行われるオーストラリア代表との直接対決を制すれば、1試合を残して予選突破が決まる。きっとやってくれるはずだ。(※この記事は弊紙のサッカー担当ではなく、ただサッカーをたまに見るのが好きな記者が書いているので専門性は皆無。あらかじめご承知おきください)

今回はサッカーの本を読みました

20年前、日韓W杯のこと

若い方は知らないかもしれないが、20年前の日韓W杯の盛り上がりはすごかった。当時、高校生だった私は教科書を放り投げ選手名鑑を読み漁った。サッカー少年でも野球少年でもなかったが、ジネディーヌ・ジダンやフランチェスコ・トッティといったファンタジスタが日本でプレーすることに心を躍らせた。日本代表のパブリックビューイングを見に行き声をからして応援した。「ワールドサッカーダイジェスト」の愛読者となり、剣道場にロナウドのポスターを貼った。大学時代はPS2「ウイニングイレブン」にもっとも時間を費やした。着る場面など考えずにユニホームを購入した。UEFAチャンピオンズリーグ決勝がある日にはアイリッシュパブの大画面で世界最高峰の戦い酔いしれた。

サッカー未経験者のわりにサッカーが好きなほうだと思う。ただ日々の仕事に追われてサッカーに触れる機会が少なくなると、サッカー戦術の急速な進化にまるでついていけなくなった。これが加齢による衰えというものなのか…、途方に暮れた気分で書店を歩いているとき目にしたのが『サッカー店長の戦術入門「ポジショナル」VS.「ストーミング」の未来』(光文社新書)だった。著者の龍岡歩さんはサッカー未経験だが異色の〝戦術分析官〟らしい。著者プロフィルを読んでみよう。

Jリーグ開幕戦に衝撃を受け、12歳から毎日ノートに戦術を記し徹底的に研究。サッカーを観る眼を鍛えるため、19歳から欧州と南米へ放浪の旅に。28歳からサッカーショップの店長を務めるとともに、ブログ『サッカー店長のつれづれなる日記』を始める。超長文の記事が評判となり、現・スポーツX社に鋭い考察を評価され入社。サッカー未経験者ながら、当時同社が経営していた藤枝MYFC(J3)の戦術分析長として4シーズン在籍。現在はJFL昇格を目指すおこしやす京都AC(関西1部)の戦術兼分析官を務める。

サッカー店長の講義が面白い

なるほど「激レアさんを連れてきた。」(テレビ朝日系)に出演しても驚かない、納得の経歴だ。そして帯に書いてあった「現代のサッカーはどこまで進化するのか?」という問いも私の胸に刺さった。サッカー店長は、現在マンチェスターシティの指揮を執るペップ・グァルディオラから〝講義〟を始める。

バルセロナを率いて来日したグァルディオラ監督、右はシャビ(11年12月)

「彼の起こした革命とは――それを革命と呼ぶならば――サッカーという競技の本質を覆したことにある。(中略)グァルディオラはこの極めて不確実な競技で「確実に」勝利を収め続ける方法を求めた。彼はしばしば、美しいサッカーを愛する理想主義者のように語られれることがあるが、むしろ彼ほど負けず嫌いな現実主義者もなかなかいないだろう」(22~23)

龍岡歩『サッカー店長の戦術入門「ポジショナル」VS.「ストーミング」の未来
』(光文社新書、2022年、22~23ページ)

素人目線で見れば、ボールを保持した瞬間、目の前にスペースがあれば次のプレーは限りなく「自由」であるかのように思えるが、ビルドアップ(=攻撃を始めるタイミング)において見るべきもの、判断すべきものを可視化、言語化したところにグァルディオラの哲学があるという。

ペップはインタビューで「理想のサッカーは?」と聞かれ、「私にとってのいいプレーとは相手の動きからプレーの決定を下していくもの」という主旨の発言をしている。彼にとって「どこにパスを出すのか?」は決してその場の思いつきであってはならない。そこには理由があり、それは「相手が決めてくれる」からだ。(中略)このペップの思考は、もはやサッカーのプレーを数式化するアプローチに近い」

前掲書、54~55ページ

本書では現代サッカーに異常な発達をもたらしたグァルディオラを中心に、ジョゼ・モウリーニョやディエゴ・シメオネなど名将と呼ばれる監督たちの戦術コンセプト論を素人にもわかりやすく解説している。中でも個人的に興味深かったのが、第5章のマルセロ・ビエルサだった。サッカー店長をして「狂気のサッカーヲタク」と言わしめたアルゼンチン人は、あの2002年のアルゼンチン代表監督でもあったからだ。

趣味がサッカービデオの収集だといわれているビエルサ監督(02年11月)

あの敗戦の理由がやっとわかった

2002年の日韓W杯、アルゼンチン、イングランド、スウェーデン、ナイジェリアという強豪ひしめくグループFは「死の組」と呼ばれた。とはいえ下馬評が最も高かったのはアルゼンチンだったと思う。システムは3―4―3。GKカバジェロ、CBが左からプラセンテ、サムエル、ポチェッティーノ、MFはボランチにシメオネ、左がソリン、右にサネッティ、トップ下にベロン、FWは左からキリ・ゴンザレス、バティストゥータ、オルテガと豪華なメンバーだった。

入れ物(システム)が明確に決まっているので、ビエルサの選手起用も一切の迷いがなかった。当時のアルゼンチンにはバティストゥータとクレスポという世界屈指のストライカーがいた。普通の監督だったらこの2人を同時併用する2トップからチームを組み立てていてもおかしくない。だが、ビエルサの中でCFのポジションは予め一つと決まっている。したがって、スタメンで使われるのはどちらか一人しかいないのだ。
 さらに、ストライカーだけでなくゲームメイカーにも当時はパブロ・アイマールとファン・ロマン・リケルメという才能豊かなタレントがいた。だが、スタメンはベロンで固定されていた。ゲームメイカーの役割とポジションは、3―4―3にはトップ下の1枚しかないからだ。

前掲書、146ページ
左からファン・ロマン・リケルメとアイマール(05年6月)

アルゼンチン代表の結果は1勝1敗1分けで、まさかのグループリーグ敗退。サッカー店長はビエルサが戦術に固執しすぎた点を敗因のひとつとして分析し、この苦い失敗がその後のビエルサを変えたとも指摘する。

緻密に組み上げられたマシーンは、緻密であるがゆえに一度機能不全に陥ると脆かった。
 皮肉だったのはイングランド戦後半、不調のベロンに変わって出場したアイマールの溌剌としたプレーぶりである。それまでサイド攻撃一辺倒だったところに現れたファンタジスタは、単調だった攻撃のリズムを一変させた。ビエルサにとってアイマールはそれまで、一種のバグのような存在だったかもしれない。しかし、アイマールのドリブルと中央突破こそが最も効果的にイングランドを慌てさせていた。

前掲書、150ページ

サッカー素人の私も20年前に「もっとアイマールを使えばいいのに…」と思っていた。ただ、それを説明する言葉を持っていなかった。サッカー店長のわかりやすい解説を聞いて、なぜ2002年のアルゼンチン代表が期待外れに終わってしまったのかを理解することができた気がした。

私のアイドルだったアイマールは既に引退し、現在アルゼンチン代表U―17の監督を務めている。本書でも紹介されている彼らしい言葉で締めくくりたい。高度な戦術が浸透した今、ファンタジスタの居場所はあるのかという質問にアイマールはこう答えている。

「サッカーというものは、感覚とかイマジネーションといった要素がたくさん秘められているんだ。チェスとは違う。チェスの駒はいつも前後、左右、斜めと同じ方向に動くが、サッカーではそうはいかない。何百回もオートマティックな練習をさせておきながら『創造性に溢れた選手がいない』だなんて言葉は聞きたくない。全てがオートマティックになっていったら、創造性はなくなってしまう」

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サッカーは「哲学」で、やっぱり面白い。偉そうなこと言ってすいません。(東スポnote編集長・森中航)

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