ライブのネタができずに交番に飛び込んだ話
1月の独演会はチケット完売。じわじわと、確実に、売れ始めているような気がしないでもない実録ドキュメンタリー芸人・コラアゲンはいごうまんのぶっ飛びエピソードをコラムでどうぞ。
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皆さんはどんな時に交番を訪ねますか? 恐らくこんな訪ね方は僕だけやと思います。
北海道南部の「むかわ町」。2012年、全国ツアー中の僕に、所属するワハハ本舗に演出家喰始(たべ・はじめ)から指令が出たんです。
「各地でご当地ネタを作ってライブのツカミにしろ」
確かにやってみると(本番前日に街中を取材すると)、各地で何かしらのネタを拾えます。
が、そのむかわ町はなかった。シシャモとタンポポで有名な町で観光には申し分ないのですが、笑いのネタだけは本番ギリまで血眼で探すも見つかりません。もはや半泣き状態の僕の前に現たのが…そう、むかわ交番なんです。ポスターには「一人で悩まず相談を」。どうしてもエピソードが欲しかった僕はネタの相談をすることにしました。
中を見るとメガネをかけた50代ぐらいのおまわりさんが昼食中。ホンマ、迷惑やったと思いますよ。飯食べてたら目を血走らせた僕が飛び込んで「芸人です。むかわ町でネタができません。どうしましょ」ですからね。
でも、「知らんがな!」と門前払いかと思いきや「何時くらいからネタできなくなったの?」と。いや、遺失物じゃなくて…と思いつつ「昨日の昼から」と答えると「大変だったねぇ」と労ってくれて、一緒にネタまで考えてくれて、むしろ僕より煮詰まって「なんも出ないわ~。芸人目線でパトロールしてなかったツケだね」って、いやいや、そんなパトロールはないでしょ。
で、神対応をいただいたお礼を丁重に言うて交番を出ようとしたその時でした。
「ちょっと待って!」
「はい?」
「つまんないネタでもいい?」
「もちろん!」
「これ、あんまり言いたくないんだけど僕の顔って50代ののび太君みたいでしょ」
「…ですね」
「こんな顔なのに名前は高橋克典て言います」
えーっ!! まさかの同性同名。聞くと小洒落たバーでカード支払いをする時、高橋克典てサインしたら女性店員がクスって笑うらしいです。
高橋克典さんは言いました。
「むかわ町の人はみんないい人です。今日のライブは爆笑ですよ」
そして「話、盛ってもいいですよ」と。
そんな高橋克典さんはその2年後に定年退職されました。むかわ町を愛し、むかわ町に愛された素敵なおまわりさんでした。