見出し画像

「麻雀は料理と同じ」モテたいジジイの嘘

 各地のマージャン教室や大会に積極的に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏。大会後には参加者による打ち上げがあることも多いが、今回はそこで拾ったエピソードから…。


東1局

 大会後の打ち上げにて。「ワシは常に与えられた配牌を常に最高形に仕上げますよ」と熱弁されているのは、御年71、築地の仲買業者だったカズヒコだ。

 マダムたちを前に自身の麻雀観を鮮魚に例え「配牌という新鮮な素材をどう料理するのか。焼くのか、煮るのか。はたまたムニエルか」と鍛え上げた目利きのノウハウは麻雀にも活きていると絶〝口〟調。

「この間なんか、四暗刻テンパイでリーチして、当たり牌が出たけど見逃しちゃったよ。リーチ・三暗刻・トイトイしかないからさ」としたり顏。「すごい! アタシだったらアガっちゃうわ」なんて嬌声を浴び、鼻の下は伸び切っている。

 隣席で「あれ?」と思ったのは小生。確か先週「出ちゃったんだからしようがない」と四暗刻リーチを満貫で出アガっていたはず…。だが日本男児のプライドを傷つけるわけにはいかない。

「じゃあさ、メンタンピン三色リーチで1萬と4萬待ち。1萬が出たらどうするの?」と推定年齢70代のヨガ好きマダムから質問を受け「もちろん見逃しだね」とまたもや得意気。「アタシ今日、1萬でロンしちゃったんだけど、次のツモが4萬だったのよ」と残念がるヨガ好きマダムを口説いているのか「麻雀も料理も大事なのはロマンと忍耐かもね」とカズヒコは脂のあまり乗っていないホッケに箸を伸ばしている。

 それも先週、まさに同じような状況で「ロマンより現実」とメンタンピン三色崩れでロンして2000点を受け取っていたはずだが…。

 もはや熟女パブならぬ完熟パブ状態。口角泡ならぬ口からホッケの身を飛ばす喜色満面のカズヒコを見ているうちに、小生の知る真実は、墓場まで持って行こうと決意した。

 モテたいと思う気持ちは、長寿の大事なファクターのひとつ。完熟パブでぼったくられないことを祈るばかりである。

お次はこんなお話

東2局

 麻雀は待ち牌が多いからといって、アガれるわけでもない。

 御年74。毎日5キロのお散歩を日課とするミツコさんは、周囲のマダムたちから「お気の毒さま」という視線を向けられていた。

 なぜなら、我腕に覚えありという雰囲気を醸し出す〝パフォーマンス御三家〟に囲まれたからだ。

 ヤスオ69歳は、したり顔で打牌解説をなさる御仁。タツロウ76歳は聞き取りにくい発声で不気味さを演出する御仁。カツトシは79歳はよく間違う盲牌に全精力を注ぐ御仁だ。

 東1局、ヤスオが威勢良く6萬をポン。いかにもワシの手は高いぞ風情で8索を打牌。その8索をチーして3萬を切ったタツロウ。その3萬を再びヤスオがポン。カツトシは「なんだかいきなり最終回みたいですな」とひとりごちている。

 中盤に入ったところで、ミツコさんがリーチを宣言。するとさっきまでいきり立っていた御三家が、途端にオドオド打牌し始めた。ミツコさんの淡々とした模打が「どうせ切るんだから、いさぎよく切りなさいよ」という無言の抗議に感じられる中「これは大丈夫だろう!」と3萬と6萬をポンしていたヤスオが切った5萬に、ミツコさんからロンの声。

 見れば4萬3枚使いの3・5・6萬待ちで3・6萬ならリーチ・タンヤオ・三暗刻。5萬でロンだったので四暗刻単騎待ちと相成った。「げっ⁉ 単騎ド高め…ワシは変則5メン待ちだったのに…」と驚愕するヤスオにミツコさんの「4万8000」という凛とした発声が会場に響き渡った。

 さすがのヤスオも意気消沈。「本当に高い」と「高いぞ風情」とでは月とスッポン。弱い犬ほどよく吠えるを心得たのか、その後、御三家ご自慢のパフォーマンスも、心なしか控えめになった。ああ無情。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


カッパと記念写真を撮りませんか?1面風フォトフレームもあるよ