見出し画像

クリス・ベノワのダイビング・ヘッドバット〝自殺飛行〟と言うしかない【WWE21世紀の必殺技#10/最終回】

 プロレスラー人生を縮める技、というのが幾つかある。パワーボムやバックドロップに代表される脳天を叩きつけるものは“やられる側”にダメージが蓄積されるので、当然それに該当する。一方で、ごく少数ではあるが“やる側”が肉体を切り刻んでボロボロになってしまう技も存在する。ダイビングヘッドバットだ。

 4年前に出版されたダイナマイト・キッドの自伝、そして去年出版されたハーリー・レイス自伝の中で、2人は全く同じように、危険度を証言している。相手の胸板に前頭部を叩きつける衝撃で頸椎を痛め、次第に痛みが背骨に広がり、やがては下半身まで弱ってくる。キッドは現在、このため車イス生活を余儀なくされている。

レイスの急降下型ダイビングヘッドバット(1982年10月、北海道・帯広)

 キッドにあこがれ、そのファイトスタイルをマネたクリス・ベノワのダイビングヘッドバットには、見ているだけで悲壮感すら感じる。相手にヒットした直後に自ら首筋をかきむしるように悶絶する姿からは、耐え難い痛みが伝わってくる。記者連中は「どうして、そこまでしてやるのか?」と何度も聞いたが、ベノワは黙って答えようとはしなかった。

 私には一つの確信がある。カナダ・カルガリーのスチュ・ハート門下生のベノワは、消滅したカルガリー式ハードファイトを復活させ、それをファンに伝えようとしているのだと…。だから私には「この技を出すのが怖くなった時、リングに上がる資格がなくなる」とベノワが腹をくくっているような気がしてならない。

コーナー最上段からダイビングヘッドバットを見舞うベノワ

 レイスが落差を重視した“急降下型”だったのに対し、キッドは飛距離を重視した“ジャンプ型”だった。ベノワは2人の元祖の特色を取り入れ、より高くより遠くに飛んでいる。これではダメージが倍加するのは当然だ。まさに「自殺飛行」と言うしかないが、ベノワはスケールを小さくしようとはしない。去年の「レッスルマニア21」では4メートルのラダー(はしご)のてっぺんから飛んでいる。ここまでくると崇高なオーラさえ漂っていた。

 5月21日に39歳になったベノワに残されたレスラー人生はそう長くはないだろう。そろそろダイビングヘッドバットを封印しないと、本当にキッドのようになってしまうのではないかと心配だ。

 この技で“殉職”することだけは避けてもらいたい。

流 智美(ながれ・ともみ) 1957年11月16日生まれ、茨城県水戸市出身。プロレス評論家。『ルー・テーズ自伝』、『門外不出・力道山』、『猪木戦記』、『馬場戦記』、『日本プロレス歴代王者名鑑』など、昭和プロレス関連の著書多数。

※この連載は2006年2月~5月まで全10回で紙面掲載されました。東スポnoteでは当時よりも写真を増やしてお届けしました。

カッパと記念写真を撮りませんか?1面風フォトフレームもあるよ