見出し画像

ヨン様よりロン様、俺様はイカサマ!?

 各地のマージャン教室や大会に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏が、オジサンオバサン、ジジイババアの生態をリポート。「東スポ」で人気を博した長寿連載をnoteでも大公開!

東1局

「年とってやっちゃいけない話は、説教自慢話昔話。だから俺はエロ話しかできないんだよ」とは、敬愛する平成の無責任男、高田純次氏のお言葉。確かにこの三大話をするジジイは多い。ロン牌を打った言い訳めいた話も多いが。

高田純次

 そんなジジイがはびこる中、三大話をまったくしない、潔いよいジジイがいる。

 御年72。往年の石原裕次郎に似ていることから、裕さんと呼ばれているジジイ。奥様(10歳年下)は、筋金入りの韓流ドラマファン。冬のソナタのロケ地ツアーに参加した経験もあり、韓流ドラマをレンタルしては、朝から晩まで泣いたり怒ったりしているという。したがって、裕さんは家庭内では肩身がせまい。

 だが輝く場所は、卓上にあった。麻雀の腕はお世辞にもいいとは言えないが、相手を褒めることに関しては天下一品。

「参った参った」

「実に見事ですな」

 アガった手牌を見ては感嘆し、点棒もさっさと渡す。

 聞けば営業畑一筋。現役時代から人をもてなすことに関してはスペシャリスト。どんな現場でも頭にネクタイを巻きながら、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎで数々の契約を取ってきたという。

 さらにいやでも韓流スターに詳しくなっている裕さんは、同卓したご婦人たちに「私を〝ロン様〟と呼んでください。よろしくお願い致します」と毎度挨拶。したがって大会では「ロン様、私にフリ込んでくださいね」なんて言われるほどの人気者。

 ロン様いわく「いつか家内に麻雀を教えて〝ヨン様よりもロン様ね〟って言われることが目標なんです」。アガることよりフリ込むことに喜びを感じているロン様。勝ち負けを超越したところにこそ、真の喜びがあるご様子である。

東2局

雀歴60年。小生は現役時代、悪事の限りを尽くして参りました」。

 1泊2日の交流麻雀ツアーでのひとコマ。温泉につかり、うまいものを食いながら麻雀三昧。雀士にとっては実に贅沢な旅である。

 その宴席にて、福岡県からやってきた御年76のジジイはマイクを握り締め、そう切り出した。悪事の限りとはいったい何なのか。しかしその前フリには全く触れず、神話のような自慢話に終始。さらにその場で趣味の詩吟を御披露。酒が入ると決まってそのパターンという幸せな御仁である。

 翌日。悪事の限りを尽くしてきたジジイと運良く対局のチャンスを得た。ゲスト参加していた某プロ雀士も同卓。ジジイは相手がプロとは露知らず「あんた雀歴何年だい?」なんて上から目線で尋ねている。「覚えてからで言えば、今年で50年になります」。律儀に返答するプロに対して、俺の方が10年先輩だななんてのたまっている。悪事の内容が気になってしようがなかった私は、それとなく探りを入れてみた。

 いわく、飲む打つ買うのトリプルスリーに邁進し、出張先にはボトルキープのごとく女性が待っていたと豪語。そして麻雀では、あらゆるイカサマ技を駆使してきたとのこと。

 だが証明するものは本人の自白以外何もない。しかも実際対局してみると、牌さばきにも特筆すべきものはなく、誰かのリーチが入ればビビりながら牌を切られているご様子。そんなジジイを尻目に、華麗な牌さばきからアガリを積み重ねるプロ。さすがのジジイも何かしら感じ取ったご様子。「あんたけっこう達者だね」と若干だが相手に敬意を表した。「一応、プロですから」。そう聞いた途端、ジジイの顔は真っ赤に。

「先に言ってよ~! ワシとんだホラ吹きですわ。麻雀覚えてまだ1年。さっきの話はワシの兄貴の話ですわ」

 あっさり告白し、破顔。

 本物に出会うと、人は素直になるものである。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

カッパと記念写真を撮りませんか?1面風フォトフレームもあるよ