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役満 ジジババ ローカル役満

 各地のマージャン教室や大会に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏が、オジサンオバサン、ジジイババアの生態をリポート。「東スポ」で人気を博した長寿連載をnoteでも公開しています。

東1局

 大車輪ダイシャリン四連刻スーレンコウ紅孔雀ベニクジャク百万石ヒャクマンゴク。ローカルルール下における役満である。ローカルルールとは、特定の地域や仲間内で適用されるルールのことで、汎用性はない。

 天和テンホー地和チーホーはれっきとした役満だが、子が自身の第1ツモ以前にロンでアガる人和レンホーはローカル役のひとつ。現状では、雀荘やオンラインゲームによっては適用しているところもあり、役満にしたり、他役との組み合わせを認めて倍満打ち切りにしたりなど解釈は様々。麻雀のルールは統一されていないので、勘違いや思い違いはわりとよく起こる。

 御年69のヤマちゃん。87歳の母親がデイサービスを利用する束の間の数時間を、麻雀でリフレッシュしている御仁である。

 そんなヤマちゃんに、配牌でピンフのテンパイがやってきた。待ち牌は一萬と四萬。ヤマちゃんは北家。他家からポン・チー・カンが入らない状態のまま第1ツモでツモアガれば、れっきとした役満・地和の完成である。

 親の第1打は北。南家の第1打は九萬。そして西家の第1打は一萬。するとヤマちゃんがバカでかい声で「ロン!役満」と発声した。

 西家のジジイは目ん玉が飛び出しそう。だが、東家の浜ちゃん、御年89は冷静だった。

「役はなんだい?」

「人和で役満だ!」と鼻息荒いヤマちゃん。

「ここは人和はないんだよ。だからピンフのみ、1000点だぁ」

 今度はヤマちゃんの目ん玉が飛び出した。「えっ⁉ これ役満じゃないのかい?」。

「役があっただけ幸せだよ。役がなければ、ただの誤ロンだよ」

 浜ちゃんに諭され、しぶしぶ1000点棒を受け取るヤマちゃん。未練たらたらにまだ崩されていなかった牌山に手を伸ばし、自分の第1ツモを確認。なんとそこには一萬が鎮座していた。

 獣のような雄叫びをあげたヤマちゃん。以来、ヤマちゃんは孫たちに「知らぬが仏」という諺の意味を、しょっちゅう説明しているという。

東2局

 息子6人を育て上げたトキさん。御年76。「教室の日は朝5時には目が覚めちゃうんです」と恥じらうご婦人である。

 36年前に未亡人となったトキさん。生前のご主人は痔を患っていたそうで、ウオシュレット発売のニュースを見ながら「一度でいいから使ってみたいのぉ」とつぶやいて息を引き取ったという。遺伝かどうかは定かではないが、トキさんが育てあげた息子6人も全員、痔。「イボあり、切れあり。なんで我が家は大痔主なんですよ」とのこと。

 そんなトキさんが麻雀教室に通い始めたのは、長男から認知症予防として勧められたことがきっかけだった。

 その日の講義は役満。数ある役満を説明するたびに、すごいわねとか、私には絶対無理なんて嘆息があちこちから聞こえてくる。説明後に実戦へ。ふとトキさんの手牌を見ると、字牌がバラバラとある。河には惜しげもなくシュンツの数牌を並べている。さっそく国士無双を狙っているのかと思ったが、一九牌も切っているので、字一色ツーイーソーに向かっているようである。

 流局となり次局。またもや数牌をバシバシ切っていくトキさん。再び字一色へ一直線。終始そんなご様子だったので、帰り際に声をかけてみた。

「字一色、いつか完成するといいですね」

「そうなんです。私、絶対に字一色をやってみたいんです。だって旦那も息子も全員痔。痔一色なんですもの

 動機はそこにあったのか! 大痔主の旦那さんもあの世で喜んでいるに違いない。きっと。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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