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希望の部署じゃなかった君と僕へ

新聞社に勤務しているというのに記事よりエッセイを書く方が好きだ。なんでかはわからないけれど、良い気持ちを良いリズムで書けたときは心臓がドキドキして夜眠れなくなる。思い返すとそんな風になったのは小学校3年生の国語の時間だったと思う。1枚の絵をみて、その絵に合わせた物語を完成させようという課題で、当時好きだった『エルマーのぼうけん』をほとんどパロディしたようなものを完成させた。先生に見せると彼女はしばらく黙り込んだあとでひとこと「すごい」とだけ褒めてくれた。飛び上がるほどうれしかったし、今でもその気持ちをたまに取り出して眺めたりしている。

それ以来自分は「何かを書く仕事」に就くんだろうなとふわふわ思いながら生きてきたし、実際新聞社という「何かを書く」ことの本家のようなところに就職した。しかし新聞で最も優先されるべきなのは情報で、物語性とか感情は二の次である。記者になるからには、ちゃんとした文章を書けるようにならなきゃいけないな、と入社前に心配していたものだけれどそんな心配は杞憂に終わった。なぜなら僕が配属された部署は文章を書くことがなかったからだ。記者は記者でも『整理記者』。この文章はどこにでもある「配属先が思っていたのと違った」人のお話です。


配属先を告げられた瞬間

配属発表で「長友誉幸 総合制作部」と告げられた時、「ほへぇ~~~~~~~」というのが正直な最初の気持ちだった。別に嫌というわけではないけれど、そうか自分かという感じ。

朝6時に出社する仕事(=東スポは夕刊なので、新聞制作が朝)。
記事に見出しをつけてレイアウトをする仕事。
文章を書いたりはしない仕事。

遠距離恋愛をしている彼女にこのことを告げると、パティシエで朝が早い彼女から「同じ時間に起きれるじゃん!やったね!」と言われ、モーニングコールをしあう約束をした。しかし僕の出社が早すぎたため3日と電話は持たなかった。何を思っていてもつつがなく日々は過ぎていくし、会社というものは行けてしまう。思っていた仕事ではなくても仕事は行けてしまうのだ。これほんとに。

1日に3つのタイムリミット

整理部では基本ひとり一日一面ずつ担当があり、その面を降版時間(=新聞が完成する時間)までに完成させることが求められる。そしてそれに伴い出社の他に整理の仕事には3つのタイムリミットがある。1つ目は記事を読んで見出しをつけるタイムリミット。記事の内容を取りこぼさないように一番一目を引く見出しをつけなくてはいけない。2つ目は割付けを書き上げるタイムリミットの。割付けとは新聞の紙面の設計図のような白い紙で、ここにペタペタと写真や地紋じもんと呼ばれる大きな文字を貼っていく。たとえどんなふざけた内容であっても読みやすさというところだけは絶対に守らなければならない。写真の大きさ、文字の大きさ、配置、ある程度のセオリーと己のセンスに従って〝良い紙面〟というものを悩み抜く。最後はもちろん降版時間だ。割付けに従ってパソコンで実際の紙面を組み上げる。この3つのタイムリミットを午前中の数時間で乗り越えなければならない。たとえ組みあがった紙面がどんな内容であっても新聞は必ず毎日刷られる。だから時間の許す限り細かいところまで詰めていかなければならない。

書き出してみるとものすごく切羽詰まっている仕事に突然就いてしまった自分がうつむきながら仕事をしているように思われるが本当に全くそうではない。むしろ本当に楽しくてびっくりしている。なぜなら整理部は本当に良い職場だからだ。こんなことをここで言うのはすごくマッチポンプ的だけど本当にそうなのだ。

良い職場ってなんだろう

良い職場とは何だろう。僕が思い出すのは大学時代にお世話になった先輩から聞いた言葉だ。「毎日嫌な気持ちをせずに出社できたらひとまず就活は成功だと思う」そういう意味で私の就活は整理部に配属されて成功した。息がとてもしやすい。人と話すのが好きで、笑っている人が多くて、会社のことを好きなひとが多いからだと思う。

「面白い会社です。自信を持っています。」

これは研修の時に整理部のある先輩が講義で言っていたものだがとてもいい言葉だと今でも思う。自分の職場のことを面白いと言っている人と一緒に働けるのはすごく安心ができる。

「ババ引いたってわけだ(笑)」

自分の配属の話を笑ってくれる先輩社員がいてとても心が軽くなった。自分が好きだった東スポの面白さをこんな人たちが支えているのだということがとてもうれしい。

人生って何をするかも大事だけど、どこに行ってだれと会うのかが僕は大事だと思う。そういう意味で僕はこの部署の人たちと一緒に面白いものを作るために奮闘していることを入社3か月ながら誇りに思っているし、いつか自分の仕事をひとこと「すごい」と褒めてもらいたい。

確かに希望の部署じゃなかった、思っていた人生と違ったかもしれない。けれど僕は今毎日笑うことができて、毎日成功と失敗があって、毎日頭を悩ませることができるこの日々のことが結構好きだし、そう思えていることはとても幸運なことだと思う。さあそんな僕が今まで担当した記事の数々がこれだ!!

本当にくだらなくて、でも本当にやりがいがあってとっても楽しい。ほんとにほんと。そんな整理部の仕事の面白さはまた次回。(総合制作部・長友誉幸)

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