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「雀風変えたのかい?」「シャンプーなら変えましたが」ジジババの攻防

 各地のマージャン教室や大会に積極的に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏がつづるジジババたちの人間模様。今回もいってみましょう!


東1局

 早くリーチしたい。とにかくアガりたい。大物手を成就させたい。麻雀の楽しみ方は十人十色。

「戦時中だったから〝勝〟が付いたのよ」とは、御歳79の勝子さん。幼少期は自分の名前が大嫌いだったそうだが、今では麻雀で勝利を呼び込む名前と捉えているマダムだ。

 勝子さんの得意技はメンゼンホンイツ。「役牌は1枚出ても2枚目が出ても鳴かないわよ。暗刻にできないなら、雀頭にするか、ホンイツ七対子か。ツモが伸びてくれば、役牌対子落としでチンイツよ」という徹底ぶり。ホンイツは「字牌で守備にも対応できることも多いので、ノーリスクハイリターンなのよ」とほほ笑む。

 対してテレビ業界で情報番組を制作してきた御歳70のタカヒロさんは、相手に深読みさせ、対応させた時に喜びを感じる御仁だ。

「發ポン、2索ポン。相手から見ると緑一色(リューイーソー)か? ホンイツか? トイトイか?に見えるわけで、場に1枚切れの字牌さえ切りにくくなる恐怖を味わわせるんです」と不敵に笑うが「最終的には萬子待ちで、發のみ1000点!なんですけどね」とブラフ仕掛けが大得意。「一人テンパイだったら1000点よりもお得なノーテン罰符で3000点。なんだよそれ!なんて言ってもらえたら至上の喜びなんですわ」と職業柄なのか情報操作に力を注ぐ。

 そんなタカヒロさんに「いつも思ってたんだけど、それってハイリスクノーリターンじゃない?」とは勝子さん。「おっしゃる通り! すんげえドキドキするんですけど、唯一の難点はノーリターン。でも深読みし過ぎた相手のがっくりした姿を見られたら、精神的には役満級のアガリなんですわ」とタカヒロさんは胸を張る。

 ノーリスクハイリターン×ハイリスクノーリターン。よきライバルと出会うと、互いの技を磨き合い、切磋琢磨できるようだ。

東2局

 1000点アガれば誰もがトップという大接戦。1索をツモり、ツモ・發で見事トップを収めたのは、ベリーショートのグレイヘア、推定年齢70オーバーの鶴子さんだ。

 普段はリーチ大好きマダムなのだが、状況に合わせてリーチを封印し、確実にアガリをものにしたフィニッシュ。「さすが鶴子さん!」と拍手しかけた時だった。

「ワシだったら即リーチだな!」

 口角泡を飛ばしながら、まくしたて始めたのは雀歴自称70年、御年81のタツオだ。

 河を指差し「早いリーチは1・4索ってな。誰でも切ってくるぞ。ワシは切らんけど」と根拠も説得力もない解説。しかも御丁寧に裏ドラまでめくって見せ「こういう時は、裏ドラが乗るもんじゃが。ほれ! 裏ドラ發じゃろ。リーチしてツモったらドラ3で跳満じゃ跳満」と敗れたのになぜか誇らしげ。

 しかし鶴子さん、嫌な顔ひとつせず「あら、今度はそうしますね。とっても勉強になりましたわ」と愚痴をこぼさず、笑みをこぼす。

「調子いい時こそ攻めなきゃ! あんた雀風変わったのかい?」「雀風だなんて、そんなたいそうな。でもシャンプーなら最近変えましたけど」と柳のごとくいなしている。「ワシだったらリーチで跳満だったのにな、もったいねぇ」と言い残し、タツオは1索をねめつけながら席を立った。

 すると鶴子さん「どこにでもいるのよ。ああいう輩」と小生に耳打ち。

「ゴルフでもいるじゃない、頼んでもいないのに教え始める輩。ただの自己満足なのよ、今回は単なる負け惜しみだけど。はいはいって聞いてあげるのも勝者の役割よ。でもああいうジジィになっちゃダメよ。モテないから

 真の強さとは何か。そしてモテるための立ち居振る舞いとは。1索に刻まれた鳳凰(ほうおう)とタツオのおかげで学ぶことができた。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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