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ジジババ対局に見る「運」と〝ミスター麻雀〟小島武夫先生の言葉

 各地のマージャン教室や大会に積極的に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏が、そこでの思わず笑っちゃうエピソードをお届けしている当コーナーだが、時に深~い話が飛び出すこともある。今回は誰もが気になる「運」のお話――。

東1局

「テンパイするまでが打ち手の仕事。ツモれるかツモれないかは運次第」

 これは、ミスター麻雀こと故・小島武夫先生(享年82)の言葉である。

 南4局10巡目、親番・カズヨが先制リーチ。卓上は僅差の大接戦だ。

 カズヨは栄養士の資格を持つ料理好きな推定年齢70代のマダム。南家は御歳70、住職のトオル。1筒のようなスキンヘッドの強面だが、虫も殺さぬ優しい御仁。西家には小島先生と同世代、御歳83のヒサコ。疎開先で3人息子を育て上げた肝っ玉母さんだ。北家はフリ込むことが大嫌いな還暦を迎えたテツオという座順。

 見ればトオルはホンイツイーシャンテン。ヒサコもドラ北を1枚抱えた七対子イーシャンテン。

 親リーチを受けた同巡にテンパイを入れたトオルは、少考後にリーチ宣言。ヒサコも同巡にドラ待ちテンパイを入れ、迷わずリーチを宣言。瞬く間に3軒リーチとなり、テツオはヒサコのリーチ宣言牌を中抜きし、お手上げ宣言。

 一気に緊迫した卓上で、カズヨが「もはや運量の勝負ね」とつぶいた。
 これまで3人の戦いぶりを幾度となく目撃してきた小生にとって、答えは一目瞭然だった。

 チンイツ仮テンパイで5萬を暗刻使いしながらも4枚目の5萬をツモったり、親リーチを受け、ドラ2筒が切れなくなるも最終的にはドラ2筒単騎待ちの四暗刻を成就させたり、記憶に残るアガリを積み重ねてきたヒサコの勇姿をつぶさに見てきたからだ。

 案の定、ヒサコの当たり牌をつかんだトオルはラス目に陥落。「アガれなかったけど3着になれたわよ」と喜ぶカズヨ。トオルは「おかげさまで徳を積めました」と肩を落とし「身にあまるお言葉ですが、頂戴いたします」と点棒を受け取ったヒサコ。

 小島先生の言葉から考えても、運量は生まれながらに決まっているような気がする。

 トオル殿、ご愁傷さまです。

在りし日の小島武夫氏

東2局

 麻雀好きには、競馬も好きな御仁も多い。御年78、麻雀歴、競馬歴ともに60年越えのトシオさんもその一人。「オレは運がよかったのかもな」が口癖で、馬券トータル収支は間違いなく負けていると豪快に笑い飛ばす。
「だったらやめたらいいじゃない」と同卓したマダムに突っ込まれると「そう思うだろ。でもそういうことじゃないんだ。競馬で負けてきたからこそ、人生のバランスが取れているんだ。今でも元気に仕事もできるんだからな」と、定年まで勤め上げた会社の相談役・顧問として現在も働いている。

 そんなトシオさんは令和元年6月に結婚50周年を迎えた。金婚式で箱根に行った折にテレビで見た、当時話題となった芸能人の結婚報告記者会見に感銘を受けたそうだ。「この間の女優と芸人の結婚会見はよかったな。互いに尊敬できるなんてな」というので、トシオ家の夫婦円満の秘訣を尋ねてみた。

「やっぱりよ、会見と同じでよ。結婚というのはよ、お互いに尊敬の念を抱けるのが一番なんだよ」とのこと。含蓄あるなぁと感心した矢先「お互い尊敬の念があれば、不倫したってどうってことないの。だって尊敬の念があるんだからな」と話はあらぬ方向へ。小生、思わずコケそうになったが、ご愛嬌というところか。

「今日は4回やって全部ラス。負けた、負けた。明日は墓参りに行ってくるわ!」と言って颯爽と踵を返すトシオ。

 トシオのように競馬でも麻雀でも勝敗に一喜一憂せず「負けてきたからこそ」と川の流れのごとく受け止めることができれば、人生における運は自然に育っていくものなのかもしれない。小生、人知れず感銘を受け、トシオの後ろ姿に、深く頭を垂れた。合掌。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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