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「麻雀も人生も行って来いがいい塩梅だぁ」(by79歳・役満姐さん)

 各地のマージャン教室や大会に積極的に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏は麻雀も、ジジババとの交流も大好き。愛すべき先輩方のエピソードを当コラムで披露してくれている。

東1局

「ロン! 国士無双!

 東2局、義征ジイさん御年76が、普段より2オクターブ以上高い声を出した。フリ込んだのは、久美姐さん御年79。義征ジイさんの手牌と自分が切った南をしばし凝視後「1万点貸してくださいな」と氷の微笑。

 卓上においては、人間の業がさらけ出されやすい。義征ジイさんは「悪いね」なんて見るからに有頂天で、久美姐さんの闘志に火をつけたことに気付いていないご様子。

 迎えた南3局。点数状況は東家2万2100点、南家2万3900点、西家・義征ジイさん5万3000点、北家・久美姐さん1000点。どんな対局でも最後まで諦めない久美姐さんに麻雀の神様が舞い降りた。

「ロン! 字一色七対子ツーイーソーチートイツ!」

 フリ込んだのは義征ジイさん。

「えっ役満⁉ すげぇ~しかも南…」

 目には目を、役満には役満を。半荘の中で2回役満が出ること自体珍しいのに、役満をフリ込んだ相手から役満をロンアガり。

「お互いにアガったりアガられたりしながら、点数が平たいまんまだと、誰もがトップを目指せるからね。お中元やお歳暮と同じで麻雀も人生も行って来いがいい塩梅だぁ」と言いながら、久美姐さんはやわらかい笑みをたたえてオーラスの戦いに挑んでいった。

 麻雀を打つにあたって、大切なことを教えてくれた久美姐さん。大会が終わり、会場のあちこちで「また来週ね」「今度は負けねぇぞ」なんて声が聞こえてくる。またここに来て一緒に打ちたいという仲間がいて、次こそは勝ちたいという気力が湧いてくる。これが麻雀の魅力であり、何よりも長寿の秘訣であることを教えてくれる愛すべきジジババたち。卓上で起こった様々なドラマから珠玉の教訓を与えてくれた人生の偉大なる諸先輩方に、心より感謝。

東2局

 高打点でアガった人はゆったりと、低打点でアガった人は、せわしなく点棒授受を行う傾向がある。自己満足と自己否定の違いといったところか。

 御年66、嘱託勤務の秀雄さん。得意技は安手アガリと一発消しの食い仕掛け。御年71、元スナックママの美津子さん。得意技はホンイツで、嫌いなものは安手アガリ。そんなふたりが同卓。

 序盤から役牌のみやタンヤオのみでアガリ始める秀雄さん。「目障りな小蝿ね。一撃食らわしたるわよ」なんて表情でチャンスをうかがっていた美津子さんに親番で大物手が入った。配牌から萬子のホンイツ模様で、6巡目にテンパイ。三六九萬待ちのホンイツ、平和、九万なら一気通貫。迷いなく南を切ってリーチ。

 そこにすかさず秀雄さんからポンの声。「おっポン! とりあえず鳴いとくか」。さっそく得意技をご披露。手牌は整ってはいないが、南家なので1翻は確保。美津枝さんが切る牌を食いまくった結果「ツモ。南のみ。ゴミゴミ」とアガった。

 安手に蹴られたことにご立腹の美津枝さん。こういった場合、美津枝さんは知らないふりをする。

「えっゴミって何? どんな役?

「だから南のみ。ゴミっていうのは300/500」

 手牌を崩そうとする機先を制され、並べ直させられた秀雄さん。美津枝さんは大の男が安手でアガリやがってと言わんばかりに贖罪の時間を味わわせてやらないと、気が済まないわけだ。

「なるほど、南のみってことね」

 ゆっくりと確認し、ひときわ大きな声を出す美津枝さん。ゆったりと公衆の面前にさらすことによって、溜飲が下がったご様子。

 いくつになっても人間にはそれぞれプライドがある。プライドという誇りを保つことも長寿の秘訣なのかもしれない。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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