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麻雀卓の前で今日もジジイは嘆くのであった

 高齢者の間でもブームとなっている麻雀。各地のマージャン教室や大会に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏によると、特に男性たちのトホホなエピソードが多いという。今回も…。

東1局

 70センチ四方の卓上で顔を合わせる麻雀。生き方も考え方も異なる4人が集まれば、行き違いも起きて当然。こんな場面を見たことがある。

「昨日は残念だったなぁ」

 同卓した折、私に話しかけてきた虎吉つぁん。御年73。正装は、スウェットに縦縞帽。名は体を表す、熱狂的な阪神ファン。前夜の負け試合を嘆いているのだなと思い、二の句を継ごうとした矢先。日々アンチエイジングに燃えているマダム57歳が合いの手を入れてきた。

「ホント残念だったわね」

 虎吉つぁんの目がキラリと輝いた

「負け方が押し出しじゃあなぁ」

「そうよね。豪快な押し出しだったもんね」

「豪快? まあ受け取り方によっては豪快かもしれないが、気持ちが逃げてたね」

「そうよ。勝負は気持ちよ。立会いにそれを出さなきゃ」

「立会い⁉ まあ立ち上がりでは、気持ちが出てたけどなぁ」

「もっと土俵際で粘らなきゃ」

「確かに。あの押し出しの回が土俵際だったな」。

 そんな会話をしながらも、虎吉さんがリーチ。今度はマダムの目がキラリと輝いた。「アタシ、先制リーチが飛んでくると、土俵際の勝負って感じで闘志が湧くのよね」と言いながら、追っかけリーチで対抗。

「有言実行だね。ところで、あんた誰を応援しているんだい? 鳥谷かい? それとも球児かい?」

「誰それ? そんな名前の力士、聞いたことないわ。琴奨菊に決まってるでしょ。昨日の押し出しは情けないったらありゃしない」

「…相撲だったのかい」。ひとりごち、ドラの5筒をツモ切った虎吉さんに向かって「ロン、一発!」と満面の笑みを浮かべるマダム。痛恨の押し出し違いに顔を赤らめ、アタリ牌まで押し出されてしまった虎吉つぁんであった。

東2局

 麻雀中の〝ぼやき〟は「ひとりごと」と「嘆き節」に大別できる。

 まずは「ひとりごと」。前局の反省や局進行について自身に問いかけているパターンが大半。内容が具体的なので、思わず返答しそうになりがちだが、そこはぐっと我慢した方がいい。いったん同意を示すと「本当は三色にしたかったんだけど」とか「ツモッちゃったからしようがない」的な〝言い訳〟と〝自己弁護〟を滝のように頂戴することになる。

「しようがないことは何もないので、そんなに納得できないのなら、アガらなきゃいいんじゃないですか」なんて返答するだけ野暮。本人は口に出して言うことによって、プライドを保っているだけにすぎないからである。

 対して「嘆き節」の代表格は「参ったなぁ~!」。ほとんどの場合、何に対して参ったのかは不明。参った対象を尋ねる気にもなれない。それよりも、時代劇俳優でもない限り、恥ずかしくて言いづらいセリフを堂々と言うその姿には、親しみを持ってしまう。

 御年80。傘寿を迎えた俊之さん。得意の嘆き節は「参ったなぁ~!」と同義語の「失敗した~!」。まるでこの世の終わりでも迎えたかのようなオーバーリアクションで、居合わせているマダムたちも、そこまで人間は失敗できるものなのかと感心しているほどである。

 ただこの御仁、聞けば誰でも知っている企業の元会長。仕事では数々の危機を乗り越え、一部上場企業にまで育て上げた一流の経営者なのである。
「会社では、たとえ失敗しても失敗した~!とは言えなかったもんで。その反動なんですかね」。はにかみながら話す俊之さん。キレのいい渾身の嘆き節は今日も続く。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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