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雀荘は完熟パブ!?バアサン雀士たちとのアツい闘い

 今月から復刻させている〝伝説の麻雀コラム〟。高齢雀士のぶっ飛びエピソードから長寿の秘訣を学んじゃおう…という狙いだったものの、あまりの人気から「長寿の秘訣になんてどうでもいいから、もっとたくさんエピソードを書いてくれ!」というハガキが殺到し、異例の長期連載となったコーナーです。執筆するのは、各地のマージャン教室や大会に積極的に参加し、ジジババたちの元気すぎる生態を目の当たりにしている「雀聖アワー」福山純生氏。今回は、3人のスーパー熟女に囲まれたお話から…。

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東1局

 下家シモチャ(右隣)には87歳のバアさん。対面トイメンには84歳のバアさん。上家カミチャ(左隣)には97歳のバアさん。

 巷では「熟女パブ」なるものがあるが、平均年齢は高くても40~50代。こちらは平均年齢ギリギリ80代。言うなれば「完熟パブ」。しかも指名料は無料。男は私のみだからVIP待遇である。3人とも酒は飲まないが、お茶は飲む

 東1局12巡目。下家の親がリーチ。「若さで勝負!」と言いながら対面はビシッと無筋の数牌を切ってきた。84歳。確かに3人の中では一番若い。上家の97歳のバアさんは、変わらぬリズムで生牌の東を切ってくる。

「リーチなんか気にしてたら長生きできねぇダァ」

 いやいや親のリーチですぞ。あっという間に私のツモ番。平和ピンフのテンパイが入る。だがドラもない。親のリーチに立ち向かう勇気も持ち合わせていない。長生きよりも、目の前にある危機を回避させていただこうかと。そんな己の不甲斐なさを心の中で嘆きながら、親の河で現物だったオタ風の雀頭を切り出していく。これで2巡はしのげる…と思った瞬間、上家のバアさんから「ロン」の声。空耳? ささやき女将? いや現実である。ゆっくりと手牌が倒された。小四喜ショウスーシー、西単騎待ち。

「初めてダァ。メンゼンの小四喜。冥土の土産ダァ

 危機回避どころか、痛恨のオリ打ち。放心状態。同卓者を見回すと、3人とも対局前より若々しく見えてきた気がする。酸欠か。

 対局後。97歳のバアさんから慰めのお言葉をいただいた。

「かわいそうな坊や。ところであんた、バアさんたちと打って楽しいのかい?

 完熟パブでぼったくられた気分であった。

こちらは大四喜ダイスーシー

東2局

「やっぱりね」

「そうだとは思ってたんだよね」

 一般社会において仕事で失敗したとき、こんなセリフを言う間抜けはいない。せいぜい「申し訳ございませんでした」と謝った後、取るに足らない言い訳をするのが関の山である。

 だがマージャンにおいては、そんな間抜けなセリフや言い訳が平然と飛び交う。しかし、そのジジイはちょっとばかり粋だった。「これだろ?」とアタリ牌を見せるのだ。

 御歳88。米寿を迎えた元商社マンである。戦時中は空軍に配属され、奇跡的な着陸をしたことがあると会うたびに語ってくれるのだが、歯がないので半分も聞き取れない。したがって相槌。しかもアタリ牌を見せるときは、相手の手牌を確認後、わざわざ自分の手牌から抜き出して見せてくれる。要は〝止めた〟のではなく、たまたま持っていただけなのである。なのでアガることはほとんどない。大会でも十中八九ブービーか最下位。それでも毎週大会にやって来ては、楽しそうに打っている。

 そんな愛すべきジジイが、やってはならないミスを犯した。

 私のリーチが不発に終わった流局時。「これだろ!」と、例のごとく自分の手牌から牌を抜き出し見せた。私の待ち牌は五索ウーソー八索パーソー。ジジイが抜き出して見せた牌は五萬ウーワン八萬パーワン。そして、満面の笑みで言った。

「やっぱりな!」

 接待マージャンが多かったかどうかはわからんが、アガることよりも、アガらせないことに喜びを感じている元商社マン。私はゆっくりと相槌を打ちながら思った。自己満足こそ、ジジィの精神健康術なのではないか。たとえ当たり牌なんかわからなくとも。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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