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ツモッた瞬間ジジイの入れ歯が!

 雀荘や麻雀教室にはガンコで、ちょっぴり困ったジジババがたくさんいる。だからこそ起こるハプニングエピソードを拾ってきてくれるのは、各地のマージャン教室や大会に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏だ。

東1局

 先ツモ、引きツモ、強打厳禁。理ではわかっているが、体が勝手に反応してしまうのが人間の哀しい性。

 御年71。総入れ歯のヤスさん。テンパイするまでは好々爺なのだが、テンパイ後の興奮状態は、ちょいワルどころか、激ワルジジイに豹変する。本人に自覚はないようだが、いきなり打牌に力が入り、周囲が一切見えなくなってしまうご様子。おそらく体のどこかに〝やる気スイッチ〟があるのだろう。眼光鋭く卓上を睨みつけ、ツモ番になると、ハゲタカが急降下するような素早さで手を伸ばし、牌を眼前に持ってくる。

 眼前に持ってくる理由は、緑内障のため、見えやすい角度があるんだとのこと。早く手術したほうがスッキリすると、周りのジジババから言われているのに、医者嫌いなので、なかなか病院に行こうとしない。医者嫌いがたたって、歯の治療も一切せず、総入れ歯になってしまったにもかかわらず。

 そんなヤスさんから「リーチ」の声。例のごとく激ワルジジイに豹変。今回はいつにも増して、力の入り方が異様だった。吐息も荒くなり、待ち牌じゃなければ、側頭部にわずかばかり残っている髪の毛が振り乱れるほど強打している。見れば四暗刻スーアンコウのテンパイ。一筒か白をツモれば役満成就となる。

 リーチ後3巡目。事件は起きた。あまりにも勢いよくツモってきた牌が、ヤスさんの前歯を直撃。直撃した牌は、隣の卓上へ着弾。「痛っ!」と口を押さえたヤスさん。ヤスさんの手牌に、入れ歯がまるごと落下。あろうことか、手牌が倒れ、白日のもとにさらされた。

 62歳の御婦人が笑い出す。「四暗刻だったのかい。そりゃ、入れ歯も落ちるわね」。笑いに包まれた卓上。真っ赤な顔したヤスさん。

 その後ヤスさんは、緑内障の手術を受けた。リーチ後の豹変は相変わらず。でも激ワルジジイではなく、ちょいワルジジイになっていた。気がした。

東2局

「最近思うようにアガれない」

 御年63の御婦人は悩んでいた。半年ほど前までは安定した成績。スタイルはメンゼン高打点。ミスター麻雀・小島武夫プロの女性版、ミセス麻雀・小島武子なんて呼ばれている。

 その日も御婦人は思うようにアガれず。ブービー争いに参加し、能面のように点棒を渡していた。大会終了後、近くの居酒屋へ。

「ワタシ、やめようかしら。麻雀」

 開口一番、ボヤく御婦人。得てしてこの手の会話は、まったくやめる気がない人が言うことが多い。自分の中では「絶対にやめないわよ」という答えがすでにあり、どれほど悲劇のヒロインなのか、聞いてほしいメッセージである。聞くだけで大概、自ら答えを導き出し、新たな気持ちで牌を握る日々が始まる。早ければ明日から、もしくはその日の夜から、卓に座っていることすらある。だが、そんな御婦人のオンナ心を測り間違えた御年69のジジイが、口を開いてしまった。

「ワシもそうなんだよ。最近勝てないんだよね。麻雀やめたほうがいいのかな」

 そう言ってレモンサワーを片手に、今日もいかにアガれなかったかを話し始めた。ジジイは毎局とにかくポンチーしまくり、ドラがないのに持っているかのような顔で卓上を席巻するスタイルである。

 小島武子とジジイ。各々のスタイルはまさに水と油。しかもジジイは話がくどい。徐々に表情が曇り始める御婦人。御婦人の中では、自分が話題の中心になるはずが一転、ジジイが主役に躍り出ている。さらに、御婦人に「少し鳴いてみたら」と言う始末。こうなったら、解決どころか泥沼の戦いとなる。

「ワタシ、絶対鳴かないで勝ってやる!」

「ワシはポンチーしまくって勝ってやる!」

 まったく噛み合うことのない仁義なき戦い。ふたりとも、麻雀をやめることはまずないと確信した。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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