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ドンキ会長本『運』は〝名言〟の圧縮陳列だった!

電車に乗って「あぁ~涼しい」と一息つくと、「運」と力強く書かれた窓のポスターが目に飛び込んできました。いつも見る『強運』(たちばな出版)ではありません。目を凝らしてみると、にっこり笑ったドン・キホーテ創業者の安田隆夫氏の顔写真入り。「印税辞退で驚安価格!」と見たことがないコピーで思わず笑ってしまいました。こうなりゃ「最強の遺言」を読むしかありません。(東スポnote編集長・森中航)

ドンキで働く人はおもしろい人が多い

プライベートでも、東スポの仕事でもドンキにはよく行きます。商品が個性的なのはもちろんですが、ドンキ(※正しくはPPIHですが、この記事では親しみを込めてドンキと表記します)で働く人が面白くておしゃべりをしているだけでネタが見つかるという、ずぼらな記者にはとてもありがた~い商品展示会というのが年に数回開かれるからです。今年6月にはこんな記事を書きました。

記事にも登場するPB企画開発(食品)の渡辺友成さんはちょっと前まで〝ナッツ王子〟だったのに、先日お会いしたときは〝缶詰王子〟に進化されていました(笑)。「ちょっと太りました?」「開発のために試食しまくるから、仕方ないんですよ。そんなことより、このみかん缶詰は…」とこちらが質問していないことまでドンドン教えてくれるナイスガイです。

南極生まれ東京育ちのドンペンも取材したことがある私ですが、安田会長にはまだお会いしたことがありません。聞くところによると、あまりメディア出演をされないそうで、昨年放送された「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)の密着ドキュメンタリーは「激レアだ」とメディア関係者の間で評判でした。昨年9月、渋谷道玄坂にできた新業態「ドミセ」の開店については私も取材に行きましたが、このときばかりはめずらしく記事をどうまとめるかで悩みました…。当時は「ドミセすごい!」といった報道が多かったのですが、果たして本当にそうなのか…? 一緒に売り場を何度も視察した消費流通アナリストの渡辺広明さんと議論して熟慮した結果、今回は「ドミセがすごい!」と持ち上げるのはやめて「ドンキの変化対応力がすごい!」ことに焦点を当てようと決めました(手前みそですが、この時点で「異変」というややネガティブな印象もあるワードを見出しに入れたのは東スポだけです)。

結果的に渋谷道玄坂の「ドミセ」は今年4月に閉店し、今は「キラキラドンキ」となっています。自分たちの目を信じて良かった。

世にもめずらしい〝圧縮陳列本〟

余談が長くなりました。そろそろ安田会長の『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』(文春新書)の話をしましょう。私の率直な感想として、いろいろな要素が詰まりまくっていて、この本もとてもドンキらしい〝圧縮陳列本〟だと思いました。なので、お買い物気分で私が気になった商品(=安田会長の名言)をピックアップしていこうと思います。

ギャンブラーの勝負勘が経営者としても有効に

私は彼らと、まさしく生死を賭けた運の格闘をおこなうことで、人生における必勝法、実践的MBAとも言うべきものを身に着けたと思っている。

安田隆夫『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』(2024年、文春新書、28p)

大学卒業後、麻雀で生きていた時代を振り返る中でのひと言。「アカギ」や「カイジ」のような世界にいたみたい。この後にアカデミックなMBAとは正反対と言っているのに、あえて「実践的MBA」というところが強すぎる。

安田会長は人生5周目だった!?

人生経験だけで言えば、実年齢の五倍の三百七十歳と言えるかもしれない。要するに、成功と失敗の回数とその振幅の大きさが、普通の人の少なくとも五倍はあるということだ。

安田隆夫『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』(2024年、文春新書、34p)

なぜ5倍なのかは具体的に明言されていないものの、5倍と言うことで、人智を超えた存在であることが強く示されていて、安田会長の圧倒的パワーが伝わってくる(笑)。

「集団運」も野球でわかりやすく

侍ジャパンの一連の戦い方を見ると、大谷選手やダルビッシュ選手が持つ強力な「個運」が、チーム全体の「集団運」へと乗り移ったのだと言えよう。前述した「情熱の渦に巻き込む力」がトルネード効果をもたらし、日本をワールドチャンピオンへと誘ったのだと私は理解している。

安田隆夫『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』(2024年、文春新書158p)

「集団運」の発動をわかりやすく説明するために侍ジャパンに言及。ただし、スポーツ選手と違ってビジネスパーソンには中長期にわたって勝ち続ける「集団運」がより重要だと、この後で力説している。

コンサルよりも「顧客最優先主義」

こうした助言は、凡庸な経営コンサルには絶対に出来ないだろう。彼らはいわば、プールサイドのコーチのようなものだ。実際に泳いだことがないから、溺れる苦しみも分からないまま、プールサイドからあれこれと指示を出す。彼らは数字を見てプレゼンや資料を作るのは得意だが、現場の具体的なことに話が及ぶと何も答えられなくなる。

安田隆夫『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』(2024年、文春新書、194p)

コンサルへの痛烈なカウンターパンチ。この一節は「そうだ、そうだ」と膝を打ちたくなる人も多いのでは?

「無欲」な変態経営者を自称

 もっとも、私も完全な「無欲」になったわけではない。実は、いまだ自分の中に残っている「欲」もある。
 それは、ヒリヒリするような刺激に対する欲望だ。自分なりにビジネスの仮説を立てて、思い切って挑戦しようとする時、成功するか失敗するか分からない緊張感、同時にプレッシャーが襲ってくる。それらに対して、えも言われぬ快感と楽しさを覚えるのだ。そういう意味では、私は〝変態経営者〟と言えるかもしれない。

安田隆夫『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』(2024年、文春新書、231p)

終わりに

私が面白いと思った安田会長の言葉を紹介しましたが、「主語の転換」など小売業とは関係ない業種でもタメになる話題がぎっしりと詰まっていました。「まさに熱血教室!720円は安い!」と誰からも頼まれていないのに宣伝してしまうのは、きっと安田会長の情熱の渦に触れてしまったからなんでしょうね(笑)。


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