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「あんた雀歴何年だい?ワシは60年だが」上から目線ジジイVSマダム

 各地のマージャン教室や大会に積極的に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏。麻雀も好きだが、ジジババとの交流がもっと好きで、このコラムでほっこりエピソードを披露してくれている。

東1局

「なんじゃその待ちは⁉」

「その牌だけは絶対切らないでしょ」

 そんなアガリ批判や打牌批判。一般論を振りかざし、自分の考えを押し付けるジジイは割りと多い。

 御年68、築地市場で仲卸業者として活躍していた茂男さん。常套句は「あんた雀歴何年だい?ワシは60年だが」。そんな茂男さんと雀歴1年の春江さん69歳が初めて同卓。春江さんは教室で習い始めたのだが、覚えも早く、センスも抜群で、大会にも積極的に参加するようになったマダムである。テンパイしたら即リーチではなく、テンパイを維持しながら手牌を伸ばしきったところでリーチをするので打点も高い。

 そんな春江さんにことごとくフリ込み続けた茂男さん。最初は「ピンフのみか」なんて言いながら点棒を渡していたが、フリ込みが続くとだんだんカッカしてきた。「一手変わり三色じゃないか」なんてアガリ批判。とどめにチンイツピンフの跳満にフリ込んだときなんか「なんでリーチしないんだ! リーチしたら倍満なんだぞ」なんて逆ギレする始末。

 対局後、よほど悔しかったのか、茂男さんがマダムに言った。

「あんたは、もっとリーチしなきゃダメだな。今日はいいが、そのままじゃ勝ちきれないよ」

 敗北した自分を納得させるべく、明らかな上から目線。マダムは涼しい顔で「アドバイスありがとうございます」なんて笑みを浮かべて応対している。そんな殊勝な態度にご満悦の茂男さん。だがマダムは後で私に言ってきた。

「何あのジジイ。私に負けたくせに」――。


東2局

 御年64、ルミ子さん。麻雀愛に満ちあふれ、自宅に麻雀ルームも造ってしまったほどのご婦人である。押し引きの感性も優れており、腕自慢の輩たちを打ちのめすほどの腕前。ただルミ子さんには癖があった。テンパイすると「いやだ怖い。誰かテンパってるんじゃないの?」と言いながら打牌するのだ。

「三味線を弾く」。大辞林によると、相手を惑わすような言動をとると記してある。麻雀においては、三味線を弾くことは禁止事項なので仲間内でも暗黙の了解でやらない。表情や言動も含め、厳密な境目が曖昧なため、トラブルの原因になることもあるからである。したがって余計なことは言わないにこしたことはないのだが、何かと口走ってしまうのが人間の哀しい性。

 ルミ子さんの場合、手牌状況についての言動ではなく、表面的な心の声が出ているだけなので、三味線行為というわけでもない。ただこのセリフが出るとルミ子さんを知っている人なら「ヤバイ。ルミ子さんがテンパイした」と分かるので、リーチ宣言と同義語。しかも打牌するたびに言ってくれるので、同卓者にとっては実にありがたいお言葉。仮に親からリーチがかかっても「怖い!」なんて言いながら平然とドラでも打って向かってくる、まさに女傑である。

 その点、男の方が危険牌と感じられる牌を切るときに手が震えたり、恐怖心を隠すために打牌が強くなったりする。「厭じゃ厭じゃは女の癖」。女性が男性に口説かれて「いやだいやだ」というのは、心中ではうれしいと思っているのに「嫌いだ」と言ってしまう微妙な女心を表したことわざ。わずか60センチ四方に4人が集う麻雀。卓上では微妙な仕草や言動から、女心も学ぶことができるのである。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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