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インドのスラム街でウケたギャグはこれだ!

 じわじわと、確実に、売れ始めているような気がしないでもないドキュメンタリー芸人・コラアゲンはいごうまん。東スポにおける〝実録連載〟を復刻しています。

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「インドのスラム街に潜入せよ」。所属するワハハ本舗の演出家・喰始(たべ・はじめ)に、そう命じられたことがあります。

 泊まっていたカルカッタの安宿のスタッフは「地元民も行かないとこに旅行者が行くなんて…」。そのドン引きっぷりからこれはクレイジージャーニーならぬただのクレイジーと判明しつつも、意を決して掘っ立て小屋が軒を連ねるスラム地区に足を踏み入れました。

 家の前で洗濯しながらしゃべっていた女性たちの会話と手がピタッと止まる。怖さから目を合わせず歩くと数人の子供たちが寄ってくる…ヤバそうな雰囲気を変えようと、僕は覚えたてのヒンディー語で自己紹介と一発ギャグを披露しました。両手でハート形を作って「胸キュン、コラアゲン!」。

 何回かスベり散らかしていると、3人の屈強な男衆が尋常じゃない目力でメンチ切って近づいてきます。ヤバい! 絶体絶命のピンチなのに、持ちギャグはもうありません。追い込まれた僕は咄嗟に人のギャグをパクっていました。なぜでしょう。無意識のうちに谷啓さんの「ガチョーン」をやっていたんです。

 すると奇跡が起きました。子供たちが「ギャハハ~」と爆笑。瞬く間にみんなに囲まれ人気者になったんです。しかし、おそらく村のラスボスであろうアジャコングのような大柄なオバサンがとんでもないテンションで「○○!△△~、××!」という奇声を発しながら登場。完全にブチ切れていたんですが、ラスボスが僕に手をかけようとした次の瞬間、1人の子供がその前に立ちはだかりました。そして、別の子が目配せして「ガチョーンをやれ」と。

 賽は投げられました。インドのスラム街、目の前には鬼の形相のラスボス…僕は渾身の力を込めて「ガチョーン!」を繰り出しました。沈黙すること2秒、よく見るとラスボスは鼻をヒクヒクさせて明らかに笑うのをこらえています。勝機! 矢継ぎ早に連発した6発目のガチョーンで膝から崩れて爆笑です。

 優しい顔でラスボスが去ると、また子供たちにもみくちゃにされました。笑う子供を見て笑う大人。そんなインドを2か月放浪して悟ったことが1つ。谷啓さんはすごい。

 コラアゲンはいごうまん 1969年生まれ。自ら体験した出会いやエピソードで観客に爆笑と感動を与える実録ノンフィクション芸人。お笑いライブに加えて企業、医療、学校等で講演活動中。著書に「実話芸人」(幻冬舎文庫)。

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