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これが正真正銘の糞コラム

事件が起きたのは2022年10月10日午後のことでした。ツイッターのトレンドワードに突如「せつな糞」というパワーワードが現れたのです。祝日ながら勤務時間中だった私は目を疑いました。いくらツイッターとはいえ、いったいぜんたいどうなっているんだい。スポーツの日に何が起きているんだい。「せつな糞」の震源地を探してみるとすぐ見つかりました。

えぇーーーー、ちゃんと存在していた言葉だったのですか!しかも夏目漱石の『吾輩は猫である』の中で使われていた語句だったとは…。読んだはずなのにまるで記憶がありません。おそらく私と似たような衝撃を覚えた人が多かったのでしょう。「せつな糞」はあっという間にトレンドワード1位となったのです。以下証拠。

10月10日に突如、「せつな糞」の人気度が100を記録している

さっさと水に流せば良かったのかもしれませんが、「せつな糞」に関連する他のツイートをのぞいてみるとこれがまた非常に面白い。「せつな糞」は喜び過ぎた犬が漏らしてしまう「嬉ション」の〝対義語〟だとか、徳川家康が三方ヶ原の戦いに負けたときに「せつな糞」をしていたとか真偽不明のツイートが散見されました。三方ヶ原の戦いといえば、家康の有名な肖像画「しかみ像」(正式名称は徳川家康三方ヶ原戦役画像)が描かれたきっかけとなった戦であると言われています。あのしかめ面は、糞を漏らしたがゆえの尻周りの不快感と屈辱感をも含意していたのではないかと想像してしまい、家康を気の毒にさえ思ったのでした。

あくる日、私は書店で本を眺めていました。目に飛び込んできたのは『誤解だらけの徳川家康』。帯には「家康の『あの逸話』はすべて作り話だった」と書かれており、手に取るやいなや祈るような気持ちでページを開きました。

ありました!!「第四章 家康は三方ヶ原で脱糞したのか」。これを読めばきっと私の頭の中の残便感も消えてなくなるに違いありません。読んでみると…家康はシロ、逆転無罪。戦場で脱糞していませんでした。良かったね家康。

もとの話は一言坂の戦いの話であり、三方ヶ原の戦いについてではないのである。仮に一言坂の戦いの逸話であったとしても、実に疑わしいと言わざるを得ない。

渡邊大門『誤解だらけの徳川家康』(幻冬舎新書、2022年、60ページ)

スッキリした気分で続きを読み進めていると、なんと今度は「しかみ像」の由来も怪しいらしいのです。家康は三方ヶ原の戦いで敗れた後、自らを戒めるものとして自画像を描かせたとされていますが、実は明治時代には長篠の戦いの家康を尾張藩祖の徳川義直が描かせたものと記録されていたとか。それがいつの間にか三方ヶ原の敗戦という情報にすり替わったというのは「伝言ゲームかよっ!」ってツッコミどころなんですが、いずれにせよ家康本人が描かせたものではないという点で一致しているそうです。

なんだか人間性を含めていろいろと誤解されまくっているような気がするけど、来年は大河ドラマやるらしいけど、どうする家康?(東スポnote編集長・森中航)

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