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紫式部は僕たちがスマホを持っていることを知らない。

10分のスキマ時間があったら何をしますか? 私の場合、仕事のための情報収集だとかこつけてニュースを見たり、YouTubeを見たりしてスマホを触っているだろうなぁと思います。そしてあっという間に10分が過ぎます、ほぼ無意識に。

10分で読める本を見つけました!

スマホを使っているのか、スマホに使われているのか

さて、政府が14日に閣議決定した「子供・若者白書」では「1日に3時間以上」インターネットを利用している小学生が51.9%にのぼることが示されました。3時間、能動的にインターネットを利用しているならともかく、もしも無意識に3時間を費やしていたとしたら…我々がスマホを使っているのではなく、スマホが我々をハックしているとしても過言ではありません。そのあたりについては『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン著、新潮新書)が詳しく書いています。iPhoneを作ったスティーブ・ジョブズが子供にiPadを触らせなかったという帯も実に衝撃的です。

それにしても、置かれた状況によって時間が流れるスピードが違う(ように感じる)のはなぜなのでしょうか? 自分が楽しいことをしている時間はあっという間なのに、学校の授業のように退屈な時間は異常なほどに時計の針が進まない。老若男女問わず誰しもが一度は感じたことがある疑問だと思います。

時間の進み方が変わった!?

この疑問には色々な〝答え〟が出されていますが、私の中で妙に記憶が残っているのが、ベルクソンの『時間と自由』という本です。(だいぶ昔のことなので読み返さないと記憶が怪しいのですが)ベルクソンは、我々の〈意識〉は時計で分割できるようなものでなく、「純粋持続」するものだと言いました。〈時間〉は秒、分…と等間隔に量が積み重なっていくものですが、人の〈意識〉はそのように刻めるものではない、有機的な連続した流れなんだ、そんな感じでした。

「哲学すぎて、ちょっと何言ってるのかよくわからない!!」

 今、日々の仕事に追われている私は素直にそう思います。しかし、自由に使える時間が山ほどあった大学時代にはこの本を楽しく、刺激的なものとして楽しんだのです。もちろん本に書かれているテキストそのものが変化するわけありませんから、変わったのは私のほうに決まってます。仕事ができない人の常套句ですが、「時間が足りない」です(苦笑)。

「要約」ではなく読むヒントを

そんな今の私にぴったりの本を見つけました。『10分で名著』とタイトルまで短いところも最高!社会学者としてメディア出演も多い古市憲寿さんが名著を要約するのではなく、その道のプロに読み方や読みどころを聞いてくるという画期的な取り組みをされています。紹介されているのは、ダンテ『神曲』、紫式部『源氏物語』、プルースト『失われた時を求めて』、アインシュタイン『相対性理論』、ルソー『社会契約論』、ニーチェ『ツァラトゥストラ』、ヒトラー『わが闘争』、カミュ『ペスト』、『古事記』、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』、アダム・スミス『国富論』、マルクス『資本論』の12冊。全部読んだらドヤ顔できそうなものばかりですね(笑)。

全7篇からなる超長編小説として有名な『失われた時を求めて』から読んでみました。対談相手の仏文学者・翻訳者の高遠弘美さんがこう言っています。

高遠 (ストーリーは)あるにはあるんですが、ストーリーだけ追うと、たぶんすごく薄くなってしまうと思います。この小説を読む楽しさは、ストーリーの間に挟まっているんですね。読書論や芸術論が出てきたり、急にドストエフスキーやベートーヴェンの話になったりとか、いろんな話題に飛ぶんです。そうやって語り手の発想があちこちに飛んでいくのを自分で追っていくのが楽しい小説なので、要約することにほとんど意味はないんですよ。登場人物からして500人くらいいますから。

古市憲寿『10分で名著』(講談社現代新書、2022年、53ページ)

1913年に第1篇「スワン家のほうへ」を自費出版するも翌年から第一次世界大戦が始まって、19年にやっと第2篇「花咲く乙女たちのかげに」が商業出版されるも、第4篇の途中が出るところでプルーストが亡くなり、第5篇が23年、第6篇が25年、最終篇が27年に出るまでに14年を要したそうです。こんな時代背景まで示されると、「そりゃ読者だって読み通すの大変だよね~」と何だか気が楽になった気がしますね。

高遠 作品には「読み時」があると思うんですよ。出会ってそれがわからないときもあれば、出会ってそれが自分の中にスッと入ってくるときもある。自分の中にスッと入ってきたら、読み始めればいいんです。読書って義務ではありませんから。私がこんなことを言うのは変かもしれませんが、なにもプルーストを読まなくたって、普通の生活はできるわけですよ。

古市憲寿『10分で名著』(講談社現代新書、2022年、64ページ)

各対談はほぼ10分で読むことができるので、2時間ちょっとあれば『10分で名著』を読了可能。最近の言葉で言えば「めちゃくちゃタイパ(=タイムパフォーマンス)がいい!」ということになるのでしょう。もしかしたら、本が書かれた時代の文化的背景がまったく異なることに驚くかもしれません。『源氏物語』の世界では顔を見ること=寝ること、男は顔も知らない女の元へ3日通うという私たちの知らない〝常識〟を楽しむことができるから、読書は面白いのかもしれません。(東スポnote編集長・森中航)


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